QuitMate QuitMate
Chapter 26

30日の回復プラン

日曜の朝。 目覚ましなしで起きた。9時半。

3ヶ月前は、この時間にはもうパチ屋の開店を待っていた。 いまは、コーヒーを淹れている。

借金はまだある。家族との関係も、まだぎこちない。 でも、昨日の夜は眠れた。朝、起きられた。 それだけで、3ヶ月前とは違う。


これが本書の最後の章である。 ここで一度、ペンとノートを取り出してほしい。 この章では、30日の計画を自分の言葉で作る。

完璧でなくていい。書ける範囲でいい。書けない項目は飛ばしていい。


なぜ「30日」か

回復に30日かければ完了する、ということではない。 依存症の回復は何ヶ月、何年もかかる過程である。

それでも「30日」を区切りにする理由は、次の通り。

脳の最初の変化が始まる時期

第4章で扱った通り、ギャンブルをやめた最初の30日は、脳の状態がもっとも不安定な時期である。 この30日を乗り切ることで、次の30日が少し楽になる。 30日は、脳の最初の変化のひとつの目安である。

計画として見渡せる長さ

1年は長すぎて、計画が立てにくい。 1週間は短すぎて、変化が見えにくい。 30日(4週間)は、ちょうど「計画を立てて、変化を感じる」のに適した長さである。

「最初の30日」は何度でも作れる

30日が終わったら、次の30日を作る。 30日のうちに再発したら、その日から新しい30日を始める。 「最初の30日」は、何度でも作れる区切りである。


第1週: 物理的な遮断

最初の1週間は、物理的な遮断に集中する。 この週に何かを身につけようとしない。 ただ「ギャンブルできない状態を作る」ことだけに集中する。

やること(優先順)

  1. お金のアクセスを遮断する第6章
    • 今日のうちに、最低1つ実行
    • 1週間以内に、可能なものすべて
  2. 緊急連絡先を準備する第8章
    • 緊急連絡先をスマホに登録
    • 安全計画を1枚書く
  3. 個人地図を作る第24章
    • 5つの要素を1枚の紙にまとめる
  4. 家族に「報告」する第19章
    • 短く、3行で
  5. 朝の儀式を1つ決める第7章
    • 5分以内のものを1つ

第1週のチェックリスト

□ 1. クレジットカードのキャッシング枠を 0 円に □ 2. 消費者金融のカードを処分または家族に預ける □ 3. ATM の引き出し限度額を下げる □ 4. ギャンブル系アプリをアンインストール □ 5. 緊急連絡先をスマホに登録 □ 6. 安全計画を1枚書く □ 7. 個人地図を1枚書く □ 8. 家族に「報告」する □ 9. 朝の儀式を1つ決める □ 10. 1日1回、自分の気持ちを言葉にする(第22章

10項目すべてをやらなくていい。 できたものに ✓ をつけて、その数を見る。 1つでも ✓ がついたら、それは進んだ証拠である。


第2週: 引き金を知る

第2週は、自分の引き金を知る期間である。 スキルを身につけるのは、引き金を知ってから。

やること

  1. HALT を確認する習慣第11章
    • 渇望が来たら、4つのうちどれか確認する
  2. トリガーマップを描く第13章
    • 場所・人・時間・感情の4つに、自分のトリガーを書く
  3. 認知のゆがみを観察する第12章
    • 頭の中のセリフに「これはゆがみだ」と気づく練習
  4. if-then プランを3つ作る第14章
    • 「もし X が起きたら Y する」を3つ
  5. 退屈・孤独への対策リスト第11章
    • 代替活動を5つ書き出す

第2週のチェックリスト

□ 1. HALT のチェックを1日3回する □ 2. トリガーマップを描く □ 3. 認知のゆがみセリフを5つ書き出す □ 4. if-then プランを3つ作る □ 5. 代替活動リストを5つ書き出す □ 6. 1週間で1回、誰かと話す(第10章) □ 7. 1日10分、何か体を動かす □ 8. 1日1回、自分の気持ちを言葉にする


第3週: 現実に向き合う

第3週は、避けてきた現実に向き合う期間である。 辛い週になる可能性が高い。 事前に、安全計画と連絡先を準備しておく。

やること

  1. 借金の総額を出す第17章
    • 全業者の残高を1つの表にまとめる
  2. 法的整理の選択肢を調べる第18章
    • 法テラスに電話する
  3. メンタルヘルスのセルフチェック第15章
    • うつ・不安・ADHD のサインを確認
  4. 否認のセリフを書き出す第16章
    • 自分の否認パターンを見つける
  5. 家族と1回、ちゃんと話す第19章
    • 「報告」の形で

第3週のチェックリスト

□ 1. 借金の総額を出す □ 2. 法テラスに電話する(または番号を登録するだけでもいい) □ 3. メンタルヘルスのセルフチェックをする □ 4. 必要なら精神科の予約を取る □ 5. 否認のセリフを書き出す □ 6. 家族と「報告」の話をする □ 7. 1日1回、自分の気持ちを言葉にする □ 8. 第8章の安全計画を毎日確認できる場所に置く

第3週は、もっとも辛い週になる可能性が高い。 辛さを感じたら、安全計画を発動する。 1人で抱えない。 連絡できる人に、必ず連絡する。


第4週: 立て直しを始める

第4週は、ここまでの3週間を整理し、次の30日に向かう準備をする期間である。

やること

  1. 回復資本の棚卸し第23章
    • 4つのカテゴリで自分が持っているものを書く
  2. 個人地図を見直す第24章
    • 第1週に作った地図に、新しいものを追加する
  3. 再発した場合の行動リスト第25章
    • 再発の翌日にやる7つの行動を1枚に書く
  4. 朝の儀式を続ける第7章
  5. 30日後の自分に手紙を書く(次のセクション)

第4週のチェックリスト

□ 1. 回復資本の棚卸しをする □ 2. 個人地図を見直して新しい連絡先を追加 □ 3. 再発した場合の行動リストを書く □ 4. 朝の儀式を毎日続ける □ 5. 30日後の自分への手紙を書く □ 6. 次の30日の計画を立てる □ 7. 1日1回、自分の気持ちを言葉にする □ 8. ここまでの章のうち、もう一度読みたい章を1つ選ぶ


30日後の自分への手紙

ここで、ペンとノートを取り出す。 本書でもっとも大事な演習である。

書く内容

次の項目について、30日後の自分に向けて書く。

  1. 30日前(いま)の自分はどんな状態だったか

    • 心の状態
    • 体の状態
    • 借金の状況
    • 家族との関係
    • ギャンブルの状態
  2. 30日間で何を学んだか / 試したか

    • うまくいったこと
    • うまくいかなかったこと
    • 気づいたこと
  3. 30日後の自分に伝えたいこと

    • 続けてほしいこと
    • 注意してほしいこと
    • 30日前の自分から、未来の自分への一言

書き方の例

30日後の自分へ

いまの自分は、(場所)で、(時間)にこれを書いている。 ギャンブルで困っていて、本書を読み終えたところ。

この30日で、自分は___ をやった。 うまくいったのは___。 うまくいかなかったのは___。 気づいたのは___。

30日後のあなたへ。 ___ を続けてほしい。 ___ に注意してほしい。 ___ ということを忘れないでほしい。

___(あなたの名前) ___ 年 ___ 月 ___ 日

手紙を「30日後に開く」

書いた手紙を封筒に入れて、封をする。 封筒に「30日後に開く」と書いて、目につく場所に置く。 カレンダーに「手紙を開く日」を入れる。

30日後にこの手紙を開く。 そのときの自分が、いまの自分の言葉を読む。 これは、いま想像しているよりも、強い体験になる。


「1日1つだけ動く」という原則

30日のチェックリストを見て、「やることが多すぎる」と感じるかもしれない。 それは正常な反応である。

1日1つだけ動けばいい

1日に複数を完璧にこなそうとすると、続かない。 1日に1つだけでいい。 1日が終わるとき、「今日は ___ をやった」と1つ言えれば、それで十分である。

30日間 × 1つ = 30個できる。 30個できたら、それは大きな前進である。

「動けない日」もあっていい

30日のうち、何もできない日もある。 寝込む日、家族と喧嘩する日、再発する日、絶望する日、何もする気が出ない日。 これらは普通である。

何もできない日に「自分はダメだ」と責めない。 責めずに、翌日にまた1つ動けばいい。 連続でなくていい。途切れ途切れで30日続けばいい。


ここまで読んだあなたへ

ここまで読んでくれて、ありがとう。

全部を理解していなくてもいい。 ここまでたどり着いたあなたは、もうスタートラインに立っている。

本書は1回読んで終わりではない。 30日後、3ヶ月後、1年後に読み返すと、同じ言葉が違って見えることがある。 気になった章があれば、いつでも戻ってきてほしい。

本書で扱えなかったこと(長期回復、認知行動療法の実践、トラウマ治療、薬物療法など)は、医療機関、自助グループ、専門家の手に委ねる。 本書はその入口を開くための地図である。

最後に、第5章で書いたことをもう一度だけ書く。

あなたが回復できるかどうかは、いまの時点では誰にも分からない。 ただ、続けた人だけが、回復に届いている。

何度再発してもいい。また始めればいい。 「また始めた人」だけが、ある日、転換点に出会える。

参考文献
  • DiClemente, C.C., & Velasquez, M.M. (2002). Motivational interviewing and the stages of change. In W.R. Miller & S. Rollnick (Eds.), Motivational Interviewing: Preparing People for Change (2nd ed., pp. 201-216). Guilford Press.
  • Prochaska, J.O., DiClemente, C.C., & Norcross, J.C. (1992). In search of how people change: Applications to addictive behaviors. American Psychologist, 47(9), 1102-1114.
  • Marlatt, G.A., & Donovan, D.M. (Eds.) (2005). Relapse Prevention: Maintenance Strategies in the Treatment of Addictive Behaviors (2nd ed.). Guilford Press.
  • Miller, W.R., & Rollnick, S. (2012). Motivational Interviewing: Helping People Change (3rd ed.). Guilford Press.
  • White, W.L. (2007). Addiction recovery: Its definition and conceptual boundaries. Journal of Substance Abuse Treatment, 33(3), 229-241.
  • Vaillant, G.E. (1995). The Natural History of Alcoholism Revisited. Harvard University Press.
  • 信田さよ子 (2014). 依存症臨床論. 青土社.
  • 松本俊彦 (2018). 誰がために医師はいる. みすず書房.
X で共有
QuitMateアプリのカテゴリ選択画面
QuitMateアプリのコミュニティ投稿画面
QuitMateアプリの回復プログラム画面
QuitMate

QuitMate

共になら、やめられる

同じ悩みを持つ仲間と支え合える依存症克服コミュニティアプリ。禁酒・禁煙・禁ギャンブルなど、一人じゃないから続けられる。