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Chapter 13

トリガーマップを描く

土曜の午後3時。 家でテレビを見ている。 退屈である。

なんとなくスマホを手に取った。 気づいたら競馬アプリを開きそうになっていた。

ただ退屈だっただけだ。それだけで手が動いた。 「退屈」が引き金になっていたとは、本人は気づいていない。 知らない引き金は、防げない。


トリガーとは何か

トリガーとは、ギャンブルへの渇望や行動を引き起こすきっかけのことである。 ピストルの引き金(trigger)から来た言葉で、依存症の世界では広く使われている。

トリガーは、本人が意識的に「やりたい」と思う前に、すでに動き始めている。 体が反応したり、頭の中で「正当化のセリフ」が動き始めたりする。 これは前章までで何度も出てきた、脳がドーパミンを自動的に出す反応である。

トリガーには大きく4つのカテゴリがある。

  1. 場所
  2. 人
  3. 時間
  4. 感情

それぞれを順番に見ていく。 そして、最後に自分のトリガーマップを作る。


場所のトリガー

場所のトリガーは、もっとも分かりやすい。 脳は「特定の場所」と「ギャンブル」を結びつけて記憶している。 その場所に行くだけで、行動を起こす前から脳が反応する。

例:

  • パチ屋
  • 駅前
  • 競馬場、競艇場、競輪場
  • 通勤途中の特定の交差点(パチ屋がある)
  • ATM の前
  • 給料日の銀行
  • スマホの中の競馬アプリ・カジノアプリのあった場所
  • 家のソファ(ネット投票していた場所)
  • 居酒屋、コンビニ(金を下ろす場所)

「物理的に同じ場所」だけでなく、「画面の中の場所」もトリガーになる。 スマホの特定のホーム画面、ブラウザの特定のページ、特定の動画チャンネル。


人のトリガー

人のトリガーは、見落とされやすい。 特定の人と会うこと自体が、ギャンブルへの引き金になる場合がある。

例:

  • 一緒にギャンブルしていた友人
  • 「一緒に行こう」と誘ってくる同僚
  • ギャンブルの話題を出す家族
  • お金を貸してくれていた人
  • 「まあ少しなら」と言う人
  • 自分を励ましつつ結局甘やかす人

人のトリガーは、「悪い人」ではない場合が多い。 むしろ「良い人」「親しい人」のほうが、より強い引き金になることがある。 親しいから断りにくく、断りにくいから一緒に行ってしまう。

人のトリガーへの対処は難しい。 完全に縁を切る必要はないが、「誘いに応じる場面を作らない」工夫が必要になる。


時間のトリガー

時間も、強力なトリガーである。 脳は「特定の時間帯」と「ギャンブル」を結びつけて記憶している。

例:

  • 給料日(特に給料日の朝、夜)
  • 月末、月初
  • 金曜の夜
  • 土曜の朝
  • 日曜の昼
  • 年末年始、ボーナス月
  • 仕事の繁忙期が終わった日
  • 休日の何もない時間
  • 夜、家族が寝たあと
  • 出張中、家族と離れているとき

時間のトリガーは「予定表」に書ける。 書けるということは、対策を立てやすいということでもある。 危険な時間帯を、事前に潰すスケジュールを作れる。


感情のトリガー

これがいちばん見えづらいトリガーである。 特定の感情が、ギャンブルへの引き金になる。

例:

  • 退屈
  • 孤独
  • 怒り(職場、家族、社会への怒り)
  • 不安(お金、仕事、将来への不安)
  • 悲しみ(失敗、喪失)
  • 達成感(仕事がうまくいった日も危険)
  • 自信過剰(「今日はいける」と感じる日)
  • うつっぽさ
  • 何も感じない、空虚感

冒頭の場面では、「退屈」という感情がトリガーだった。 本人は「退屈」を引き金とは思っていなかった。 だから防げなかった。

感情のトリガーは、第11章で扱った HALT と重なる部分もある。 ただし HALT は4つに絞った基本セットで、感情のトリガーはもっと幅広い。


トリガーマップを作る

ここまでの4つを使って、自分のトリガーマップを作る。

ステップ1: 過去の再発を3つ思い出す

最後の3回の再発を思い出す。 それぞれについて、次のことを書き出す。

再発1( 月 日) 場所: 人: 時間: 感情:

再発2( 月 日) 場所: 人: 時間: 感情:

再発3( 月 日) 場所: 人: 時間: 感情:

ステップ2: 共通点を探す

3つを並べると、共通点が見えてくる。 ほとんどの人は、特定の組み合わせで繰り返し再発している。

例:

  • 場所はいつもパチ屋
  • 人はいつも一人
  • 時間はいつも給料日の夜
  • 感情はいつも怒り or 退屈

これがあなたの「典型的なトリガーパターン」である。

ステップ3: マップに書く

紙に4つのカテゴリを書き、それぞれに自分のトリガーを書き込む。 共通して出てきたものは、太字や赤色でマークする。

[場所] ・パチ屋 ・駅前 ・通勤路の交差点

[人] ・元同僚A ・誘ってくる先輩

[時間] ・給料日の夜 ・金曜の夜 ・休日の昼

[感情] ・怒り ・退屈 ・孤独

このマップを、家の壁、スマホの待ち受け、財布の中など、よく目にする場所に置く。

ステップ4: 月1回見直す

トリガーは時間とともに変わる。 新しいトリガーが出てくることもあるし、消えるトリガーもある。

月1回、マップを見直す。 新しい再発があれば、その時のトリガーを追加する。 最近気にならなくなったトリガーは、二重線で消してもいい。


マップを使って引き金を回避する

トリガーマップは、作って終わりではない。 日常で使う。

危険な日を事前に予告する

カレンダーを開いて、自分のトリガーが揃う日に印をつける。

  • 給料日 → 印
  • 金曜の夜 → 印
  • 飲み会の翌日 → 印
  • 出張の前後 → 印

印のついた日には、事前に対策を入れる(家族と過ごす、ジムに行く、etc)。

トリガーが出た瞬間に気づく

マップを見慣れていると、「あ、いまこのトリガーが動いている」と気づきやすくなる。 気づけたら、第14章 if-then プランや、第9章 渇望対処スキルにつなぐ。

トリガーを物理的に減らす

「場所」のトリガーが多い人は、通勤ルートを変える、アプリを完全に削除するなど、その場所を生活から減らす工夫をする。 「人」のトリガーが多い人は、誘いを断る具体的な言葉を準備しておく。 「時間」のトリガーが多い人は、その時間帯のスケジュールを埋める。 「感情」のトリガーが多い人は、その感情が出たときの代替行動を決めておく。

代替活動のリストを作る

危機の瞬間にゼロから考えるのは難しい。冷静なうちに、ギャンブルの代わりにできることをリストにしておく。

【家でできること】 ・ ___________ ・ ___________ ・ ___________

【外でできること】 ・ ___________ ・ ___________ ・ ___________

【誰かとできること】 ・ ___________ ・ ___________ ・ ___________

【お金がなくてもできること】 ・ ___________ ・ ___________ ・ ___________

それぞれに最低3つ書く。リストの中から「いま、5分以内に始められるもの」を3つマークしておく。

参考文献
  • Marlatt, G.A., & Donovan, D.M. (Eds.) (2005). Relapse Prevention: Maintenance Strategies in the Treatment of Addictive Behaviors (2nd ed.). Guilford Press.
  • Witkiewitz, K., & Marlatt, G.A. (2004). Relapse prevention for alcohol and drug problems: That was Zen, this is Tao. American Psychologist, 59(4), 224-235.
  • Hodgins, D.C., & el-Guebaly, N. (2004). Retrospective and prospective reports of precipitants to relapse in pathological gambling. Journal of Consulting and Clinical Psychology, 72(1), 72-80.
  • Echeburúa, E., Fernández-Montalvo, J., & Báez, C. (2001). Predictors of therapeutic failure in slot-machine pathological gamblers following behavioural treatment. Behavioural and Cognitive Psychotherapy, 29(3), 379-383.
  • Sharpe, L. (2002). A reformulated cognitive-behavioral model of problem gambling: A biopsychosocial perspective. Clinical Psychology Review, 22(1), 1-25.
  • Brown, R.I.F. (1987). Pathological gambling and associated patterns of crime: Comparisons with alcohol and other drug addictions. Journal of Gambling Behavior, 3(2), 98-114.
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