ギャンブル依存の苦しみはみんな隠している
40代の男性。ギャンブルで400万円の借金。家族に相談できない。仕事も辞められない。
医療機関にも自助グループにも行ったことがない。「自分のことなんだから、自分で何とかするしかない」と思い続けている。
こういう人は珍しくない。日本でギャンブル依存を抱えている人の99%は、医療にも自助グループにもつながらないまま暮らしている。

ギャンブル依存で治療を受けるのは、1%にも満たない
厚生労働省の2021年の推計では、日本でギャンブル等依存症の疑いがある人は過去1年で約196万人にのぼる。一方、ギャンブル依存症で医療機関を受診している人は数千〜1万人規模と推計されている。受診率は1%にも満たない。99%以上は、おそらく誰にも打ち明けないまま抱え込んでいる。
アルコール依存症も似た構造で、国内推計57万人に対し、専門治療を受けているのはごく一部にとどまる。
これだけ多くの人が医療につながらない理由は、複数ある。専門外来の数が少ない。依存症だと知られたくない気持ちが強い。本人が問題だと思っていない。そしてもうひとつ大きいのが、依存症は「隠せる」疾患だということだ。痛みは身体に出ない。検査値にも出ない。本人と家族が黙っていれば、社会からは何も見えないまま、内側だけで進行する。
99%の中で、結果は二極化している
99%が治療を受けていないからといって、99%が破綻に向かっているわけではない。
治療を受けずに依存から回復する人は、珍しくない。ギャンブル依存では3〜4割、アルコール依存でも同程度かそれ以上の割合が、治療なしで回復に至るという報告がある。これを自然回復と呼ぶ。
一方で、回復に至らなかった人もいる。家族関係の崩壊、繰り返される再発、深刻な健康障害、自殺。ギャンブルなら、借金や離婚、職の喪失、自殺念慮も起きやすい。
自然回復する人と、深刻化する人。同じ依存症の集団の中で、結果は二極化する。残酷なのは、その分かれ目が、回復した後でしか分からないことだ。
「自分でやる」を選んだあと、何ができるか
自分が3〜4割の自然回復に入るのか、それとも深刻化していく側に入るのか。これは事前には分からない。
事前に分からないからこそ、何もせずに放っておくか、何かしら動くかで結果が分かれる。データで見ても、自然に回復していった人は「何もしなかった」のではなく、医療を経由しないだけで、何かしらの動きをしていることが多い。
医療を経由しない動きには、いくつかの形がある。
ひとつは、お金や物理的なアクセスを止めること。ATMに行かない、給料の口座を分ける、自己排除制度を使う。家族にも医者にも知らせずに、ひとりで動かせる最初の手だ。
もうひとつは、誰にも言えなかった話を、匿名のどこかに書くこと。自助グループ、QuitMateのようなオンラインの匿名コミュニティ。実名を使わなくていい場所で、最初の一言を書く。書く頻度が上がると、自分の状態を客観視できる回数が増えていく。
家族との関係が動かせるなら、家族側にCRAFTという家族支援を試してもらう手もある。本人が病院に行かなくても、家族が支援を学ぶことで、家の空気が変わる。
これらは医療の代わりではないが、病院に行かなくても始められる。
医療に行くべきタイミングはある
ただし、こうした動きだけでは追いつかない場合もある。
自殺念慮が頻繁にある、長期の不眠が続いている、うつや不安障害が悪化している、借金が一人では立て直せないほど膨らんでいる。こうなっているなら、専門医療や法的整理が必要になる。
いまは医療なしで動かせていても、ずっとそうとは限らない。自分で動かしてみて追いつかないと感じたら、その時点で病院や法律家に切り替えるほうがいい。
まとめ
99%が治療を受けていない、という事実が示しているのは、回復が病院の中だけで起きるわけではない、ということでもある。治療なしで回復していく人は珍しくない。
ただし、回復するかどうかは「何もしない」では決まらない。お金のアクセスを断つ、誰かに匿名で話す、書く、家族に支援を求める。何かひとつでも踏み出しているかどうかで、結果が分かれることが多い。
誰にも見せないまま何もしないか、誰にも見せないままでも何かひとつ踏み出すか。そこが分岐点になる。
参考文献
- 厚生労働省. 令和3年度 ギャンブル等依存症に関する調査研究報告書. 2022.
- Vaillant GE. “A 60-year follow-up of alcoholic men.” Addiction. 2003;98(8):1043-1051.
- Slutske WS. “Natural recovery and treatment-seeking in pathological gambling: results of two U.S. national surveys.” American Journal of Psychiatry. 2006;163(2):297-302.
- Sobell LC, Cunningham JA, Sobell MB. “Recovery from alcohol problems with and without treatment: prevalence in two population surveys.” American Journal of Public Health. 1996;86(7):966-972.
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