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リーチで外れが一番ゾクゾクする。ニアミスの科学

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リーチがかかる。3つ目のリールだけが、まだ回っている。

心臓がドクドクいう。息を止めて、止まるのを待つ。結果はハズレ。

それでも席は立てない。「次こそ」と、もう1000円突っ込む。22時を過ぎた頃、財布の5000円札が消えている。

帰りの電車で、ぼんやり思う。今日、一度だけ引いた大当たりよりも、さっきのリーチ外れのほうが、よっぽど体に残っている。なんでだろう。

near miss brain

外れなのに、脳は勝ちと勘違いしている

2009年、ケンブリッジ大学の研究チームが、スロットを打っている人の脳をMRIで撮った。条件は3つ。「完全な勝ち」「ニアミス(リーチ外れ)」「完全な外れ」。

ニアミスのとき、脳の「勝ちに反応する場所」が、本当の勝ちに近いレベルで光っていた。配当はゼロ円。客観的には完全な負け。それでも脳はそう扱っていなかった。

もう一つ大事な発見があった。体の内側の感覚を感じ取る部分が、勝ちよりも、ニアミスのときに強く光っていた。心臓のドクドク、胸のざわつき、背筋のゾクゾク。そういう身体感覚を作っている場所だ。しかも、ここが強く反応する人ほど「もう一回やりたい」と感じていて、日常のギャンブル問題も深刻だった。

勝ちは終わる、ニアミスは終わらない

勝ちとニアミスで、後に残るものが全然違う。

当たれば、派手な演出が始まる。玉がガラガラ落ちてくる。「あー、やっと取り返した」。ドクドクしていた心臓も、少しずつ落ち着いていく。脳は「ひと仕事終わった」と処理を閉じる。

ニアミスは、そうならない。結果は外れなのに「あと一歩だった」が残る。心臓はドクドクしたまま、ハンドルから手が離せない。脳は次の一回を待っている。

脳の中には、「欲しい」を作る回路と、「気持ちいい」を作る回路が、別々にある。ニアミスは、気持ちよさは届けない。でも「欲しい」のスイッチだけはしっかり押す。だから「楽しくないのに、やめられない」が起きる。

長くやっているギャンブラーがよく言う。「勝っても、前みたいに嬉しくない。でも気づいたら店に向かっている」。これは「欲しい」だけが肥大していった結果だ。ドーパミンと依存の話は「なぜ依存症になるのか?脳とこころのしくみ」にまとめた。

勝ちより、ニアミスのほうが汗をかく

別の研究では、スロット中の手のひらの汗の出方を測っている。緊張すると手が汗ばむ、あれだ。汗の量で、体の覚醒度がわかる。

ニアミスのときの汗は、勝ちと同じか、それ以上だった。体は「ほぼ勝ち」を、本物の勝ちより強く感じていた。

カナダの研究では、ニアミスなしのスロットと、4回に1回くらいニアミスが出るように調整したスロットを比べた。後者のほうが、プレイ時間が約33%長かった。

ニアミスは「客を興奮させるための演出」じゃない。「興奮を、終わらせないための仕掛け」だ。

ホールは、ゾクゾクを作るために作られている

パチンコ屋に並んでいる何千台もの機械は、このニアミス効果を意識して作られている。

昔の物理的なリールと違って、電子制御の台は、コンピューターで止まり方を決めている。ニアミスの頻度を、本当の当選確率とは別に、自由に調整できる。

しかも、いつ来るかわからない報酬ほど、人はやめられない。動物実験でも、報酬がいつ出るかわからないときほど、ネズミはレバーを押し続けた。この原理を、スロットやパチンコは「もう少しで当たる」感覚ごと商品にしている。

勝ったように見えて、実は負けている演出もある。1万円分打って、5000円戻ってくる。実質は損。でも派手な音と光で「当たり!」と演出される。脳は「勝った」と錯覚する。

マルチラインのスロットは、こういう「ほぼ損」の当たりが頻発するよう作られている。打ちながら、ずっと「当たってる」と感じさせられる。

ホールで感じるゾクゾクは、脳が勝手に反応しているというより、ゾクゾクを最大化するよう組まれた装置に、ちゃんとハマっている。「たまに当たる」仕組み全体の話は「ギャンブルをやめられない本当の理由」にも書いた。

今日からできること

仕組みがわかったうえで、できることは3つある。

体のサインに気づく。 リーチがかかって心臓が跳ねたら、「いま脳が反応してる」と一度思い出す。それだけで、次のハンドルに手を伸ばすのを、少しためらえる。瞑想やマインドフルネスが依存症治療で効くのは、この「身体感覚に気づく力」を育てるからだ。

物理的に距離を取る。 気合いで抑えるのは難しい。近づかないのが、一番効く。パチンコ店への自己申告プログラム、オンラインギャンブルのブロックアプリ(Gamban、BetBlocker)、銀行口座のギャンブル利用制限。使える仕組みは全部使っていい。具体的な手順は「ギャンブルをやめる5ステップ」にまとめた。

同じ経験の人の言葉を読む。 リーチで心臓がドキドキする、あの感覚を言葉にしている人たちがいる。ギャンブラーズ・アノニマス(GA)のミーティングや、QuitMate のようなオンラインコミュニティで、同じ身体感覚を言葉にしている誰かの投稿を読むと、自分と自分の脳を、少し分けて見られるようになる。

まとめ

リーチ外れで走るゾクゾクは、勝手に湧いてくる興奮じゃない。脳では、勝ちよりも強い身体覚醒と、終わらない期待が、同時に出ている。それを最大化するように、台は作られている。

「やめたいのに、足が向かう」のは、気合いの問題じゃない。脳の仕組みも、機械の設計も、人を依存させるようにできている。

仕組みが見えると、問いが変わる。「なんで自分はこんなに弱いんだろう」から、「何に反応しているんだろう」へ。そこから、次の一歩が見えてくる。

参考文献
  • Clark, L., Lawrence, A. J., Astley-Jones, F., & Gray, N. (2009). Gambling near-misses enhance motivation to gamble and recruit win-related brain circuitry. Neuron, 61(3), 481–490.
  • Wulfert, E., Franco, C., Williams, K., Roland, B., & Maxson, J. H. (2008). The role of money in the excitement of gambling. Psychology of Addictive Behaviors, 22(3), 380–390.
  • Côté, D., Caron, A., Aubert, J., Desrochers, V., & Ladouceur, R. (2003). Near wins prolong gambling on a video lottery terminal. Journal of Gambling Studies, 19(4), 433–438.
  • Dixon, M. J., Harrigan, K. A., Sandhu, R., Collins, K., & Fugelsang, J. A. (2010). Losses disguised as wins in modern multi-line video slot machines. Addiction, 105(10), 1819–1824.
  • Berridge, K. C., & Robinson, T. E. (1998). What is the role of dopamine in reward: hedonic impact, reward learning, or incentive salience? Brain Research Reviews, 28(3), 309–369.
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