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依存症をつくる脳の仕組みで、回復は加速できるか

脳と心の科学 Read in English

スマホを開く。何もない。閉じる。少しして、また開く。やっぱり何もない。

誰でも一度はやっている動作だと思う。本当はやめたいのに、気づくと指がスマホに伸びている。

この動作は、パチンコ台の前で椅子に座り続けている人と、脳のレベルではほぼ同じことをしている。

暗い部屋でスマホを見つめる人物

スロットマシンとSNSは同じ仕組みで動いている

行動を一番強く持続させる報酬の出し方は決まっていて、「いつ来るか」「どのくらいの大きさで来るか」がランダムなときだ。心理学では変動比率強化と呼ぶ。

この仕組みは、スロットマシンの設計図そのものに使われている。スピンを回すたびに、脳は「次は当たるかもしれない」と予測を立てる。実際の結果はランダムだから、予測と現実のズレが繰り返し起き、その都度ドーパミンが出る。出るのは当たった瞬間ではなく、当たるかもしれないと期待している瞬間のほうだ(詳しくはこちらの記事)。

スマートフォンのSNSも、ほぼ同じ設計で動いている。投稿に「いいね」がつくかどうか、何件つくか、いつ通知が来るか。すべてランダムで、結果は予測できない。だから人は何度もアプリを開く。動画のフィードも同じだ。次の動画が面白いかどうかは見るまでわからない。だからスクロールが止まらない。

ニュースサイトのプル型読み込み、ガチャ、ライブ配信のチャット。どれも、スロットマシンと共通のドーパミン回路を踏んでいる。

研究もこれを裏づけている。SNSをよく使う人ほど、脳のドーパミン反応が鈍くなり、長期の物質依存と似たパターンが見られたという報告がある。

仕組みが同じなら、逆向きにも使えるのか

依存をつくっている仕組みが、脳の中の特定の回路だとわかってきた。だとすれば、同じ回路を回復の側に向け直すこともできるはずだ。

これは奇妙な発想に聞こえるかもしれない。だが、人は昔から似たことをしてきた。タバコをやめるためにガムを噛む。酒の代わりにコーヒーやノンアルコールを飲む。ジョギングを始める。これらは、依存に向かっていたエネルギーや習慣のループを、別の対象に乗り換えさせる試みだ。

新しいのは、テクノロジーがこの「乗り換え」の精度を上げられることだ。

やめるのではなく、置き換える

ラットパーク実験は、依存研究の入り口によく出てくる。1970年代に行われた実験で、孤独なケージのネズミは薬物水を飲み続けたが、仲間と暮らす広い空間のネズミはほとんど飲まなかった。

この実験の解釈は今もいろいろある。ただ、依存物質を取り上げただけでは、その人の脳が必要としていた何か(刺激、つながり、達成感)が空白のままになり、そこに別の何かが入り込みやすい。

アルコールやギャンブルは、孤独や不安や抑うつに対する一時的な「薬」になっていることもある。薬を取り上げただけでは痛みは消えない。代わりの対処法が要る。

依存からの回復は、「やめる」ことよりも「置き換える」ことに近い。

QuitMateの中で起きていること

QuitMateという依存症回復のSNSアプリは、スマートフォンの中で動いている。スマートフォンは、依存をつくる側の道具でもある。これは矛盾に見えるが、よく見ると違う。

QuitMateも、同じドーパミンの仕組みを使う。違うのは、その仕組みで何を続けさせるかだ。

継続日数のカウンターは、増えていく数字を見たいという欲求を生む。一日やめれば1が増える。失敗してもリセットしてまた1から始められる。スロットの「いつ当たるか」とは違うが、前進の感覚を脳に与えるという意味では同じ報酬系を使っている。

他人の投稿に対するコメントは、変動比率の側で動く。投稿に何件のコメントがつくか、誰が反応するか、何と言ってくれるかは予測できない。これはSNSのいいねと構造が同じだ。違うのは、流れている情報が「やめ続けている人がいる」「失敗して立て直そうとしている人がいる」というものに限られていることだ。

匿名性は、恥や自己開示のハードルを下げる。実名のSNSでは、依存の話は書きにくい。家族にも友人にも言えないことが、匿名のアプリでなら書ける。書く頻度が上がると、自分の状態を言葉にする回数が増える。自分を客観視する練習が、結果として日常の中に組み込まれていく。

これらは、依存を強化する仕組みの逆利用になっている。

599人のデータと2025年のメタ分析

QuitMateのアプリには、実際に何が起きているかのデータがある。

アクティブユーザー599人を、他人の投稿に書いたコメント数で4つに分けて、それぞれの継続日数の中央値を比べた(詳細はこちら)。

他人へのコメント数継続日数の中央値
0件29日
1〜2件36日
3〜9件77日
10件以上114日

コメントを多く書いている人ほど、継続日数が長い。0件と10件以上で約4倍の差がある。

これだけでは因果関係まではわからない。コメントを書く人は元々モチベーションが高い、という可能性は残る。ただ、書くという行為そのものが回復を支えているという解釈は、AAの12ステップで「他の依存症者を助ける」が最終ステップに置かれていることや、利他行動と断酒維持の関連を示す研究と整合的だ。

外の研究も、同じ方向を示している。2025年に Addiction 誌に掲載された系統的レビュー+メタ分析は、6461人を対象にした34件の臨床試験をまとめている。対面の治療にアプリなどのデジタル支援を組み合わせると、再発のリスクが約39%下がるという結果だった。アプリだけでも一定の効果はあるが、対面と組み合わせるのが現時点でもっとも信頼できる使い方だ。

ただし、設計を間違えると逆効果になる

注意したい点が2つある。

1つ目は、テクノロジー単独での治療効果は、現時点では限定的だということ。米FDA承認のreSET-Oという処方デジタル治療アプリは、薬物依存の治療継続率を82.4%まで上げたが、薬物使用そのものを減らす効果は標準治療と差がなかった。アプリは治療を続けさせる側で効きやすく、症状を直接減らす側では弱い。

2つ目は、回復のためのアプリも、設計を間違えると元の依存と同じ問題を生むということ。通知が多すぎる、課金圧力が強い、ランキング機能で焦らせる、こういう作りは、回復を支えるどころか別の依存をつくりかねない。SNSの過剰使用そのものが脳を変えうることはすでに見たとおりだ。回復目的だからといって、画面時間を増やせばよいわけではない。

同じ仕組みを逆向きに使うという発想は有効だが、設計の倫理が伴わないと成立しない。回復アプリは、ユーザーをアプリに引き止めるためではなく、ユーザーが日常生活に戻っていくのを支えるために存在している、という前提が必要になる。

まとめ

依存症は、脳が特定の回路を学習しすぎた結果として起きる。同じ回路を反対向きに走らせれば、学習を上書きできる可能性がある。まだ仮説の段階に近いが、データは少しずつそちらを指している。

依存症はやめるものではなく、置き換えるものに近い。何で置き換えるのか、どう置き換えるのかは、次の問いになる。


参考文献
  • Schoofs N, et al. “Striatal dopamine synthesis capacity reflects smartphone social activity.” iScience. 2021;24(5):102383.
  • Kwan I, et al. “How effective are remote and/or digital interventions as part of alcohol and drug treatment and recovery support? A systematic review and meta-analysis.” Addiction. 2025.
  • Pagano ME, et al. “Helping other alcoholics in Alcoholics Anonymous and drinking outcomes.” Journal of Studies on Alcohol and Drugs. 2004;65(6):766-773.
  • Volkow ND, Morales M. “The brain on drugs: From reward to addiction.” Cell. 2015;162(3):403-413.
  • Skinner BF. Science and Human Behavior. Macmillan, 1953.
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