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「尻拭いするな」って本当?依存症家族のための科学的知見

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家族がアルコールやギャンブルをやめられない。何が起きているのか分からないまま本やネットを調べ始めた人が、早い段階で必ずぶつかる言葉がある。

「尻拭いをするな」「突き放しなさい」。

借金を肩代わりしない。欠勤の電話を代わりにかけない。酔って壊したものを片付けない。そうすれば本人は「底を突いて」目が覚める、そこまでいかないと人は変われない、と書かれている。

ただ、目の前でボロボロになっていく家族を放っておくのは、見捨てるようで気が引ける。助けるとまた飲む。放っておけば取り返しのつかないことが起きそうな気もする。このあいだで迷う人はとても多い。

「尻拭いをやめろ」は本当に正しいのか。実は、研究と世間のイメージのあいだには、ちょっとしたズレがある。

家族が関わり方に迷う

「尻拭い」とは何か

臨床の世界ではイネイブリングと呼ばれる。本人の依存行動の後始末を家族がしてしまうことで、結果として依存行動を続けやすい環境を作ってしまうことだ。日本の依存症治療拠点機関の資料を整理すると、次のような行動が該当する。

  • 借金を肩代わりする、取り立てに対応する
  • 二日酔いで起きられない本人の代わりに、職場へ欠勤連絡をする
  • 酔って汚した部屋、吐いた跡を黙って片付ける
  • 散らばった酒瓶や賭博の証拠を隠す、処分する
  • 家庭内で起きた暴言や暴力を「なかったこと」にする
  • お酒を買ってくる、本人に頼まれたら買いに行く

これらを続けている限り、本人は「飲んでも(賭けても)なんとかなる」という状態にとどまる。会社にも居続けられ、お金もどこからか回り、生活は維持される。依存症の専門家が「尻拭いをやめて」と言う背景には、この論理がある。

「底つき」を待つ考え方の限界

ここで多くの家族が次に悩むのは、放っておいたら本当に本人は立ち直るのか、ということだ。

「底をつけば気づく」という考え方は底つき理論と呼ばれ、20世紀のAA(アルコホーリクス・アノニマス)の文化から広まった。人は十分に苦しまないと変わらない、家族が支えているとそこに到達できない、だから手を放せ、という考え方だ。

ところが、「底つき」を裏付ける研究は実はほとんどない。米国の研究では、「底」に一貫した定義はなく、何をもって「底」とするかは人によって全く違う。本人が治療を始めるきっかけとしては、破滅的な出来事よりも、家族の日常的な声かけや関係の中での気づきのほうが多く報告されている。

もう一つ重要な知見は、家族が集まって本人に依存症を突きつけ、治療を迫る『対決型アプローチ』に関するものだ。臨床試験を40年分レビューしたWhite & Miller(2007)は、「対決型カウンセリングの有効性を示した臨床試験は一つもなく、むしろ害を示した研究が複数ある」と結論づけている。副作用として、家族関係が壊れる、羞恥心から依存行動をより隠すようになる、といった点が指摘されている。つまり、家族が無理に本人に依存症を突きつけて治療を迫るアプローチは、本人を変えるどころか、害のほうが大きい。

「何もしない」「突き放す」は、依存症の人を動かす力として、思われているほど強くはない。

CRAFTという、第三の道

ではどうすればいいのか。ここ20年ほどで評価が固まってきたのがCRAFT(Community Reinforcement and Family Training、コミュニティ強化と家族訓練)という家族支援プログラムだ。行動心理学者ロバート・メイヤーズ博士らが1990年代に開発し、現在は米国・英国・日本を含む複数の国で標準的な選択肢のひとつになっている。

1999年にミラーとメイヤーズが発表した比較研究が有名だ。治療を拒否している本人を持つ家族130人を3グループにランダムに割り付け、それぞれ異なるアプローチを12時間学んでもらった。家族の働きかけで本人が治療につながった割合はこうなった。

アプローチ本人が治療につながった割合
家族の自助グループ13%
対決型の介入30%
CRAFT64%

CRAFTは家族の自助グループの約5倍、対決型の2倍以上で本人を治療につなげている。日本でも、徳島の藍里病院で吉田精次医師らが実施したプログラムでは、CRAFTを受けた家族の83%で本人が受診に至ったとの報告がある。

CRAFTがやっていること

CRAFTの核は、大きく分けて2つの原則にまとめられる。

ひとつは、健康的な行動に対してはポジティブに反応すること。本人がお酒を飲まなかった日、賭けに行かなかった日に、普段通りの会話をする。美味しい食事を一緒にとる。笑顔を返す。「飲んでないんだね、良かった」と言葉にする。小さなことだが、脳の報酬系に「飲まない日のほうがいいことがある」と学習させる働きがある。

もうひとつは、依存行動には反応しない、後始末もしないこと。ここが従来の「尻拭いをやめる」に近い。ただしCRAFTで重要なのは、これを罰として行わない点だ。

「自然な結末」と「罰」は違う。罰は、家族が能動的に何かを取り上げること。結果として家族のほうが「敵」になりやすい。自然な結末は、本人の行動の結果が本人に自然に返っていくのを妨げないこと。欠勤連絡をしないと、本人が自分で上司と話さなければいけなくなる。これは家族からの罰ではなく、本人の行動の結果だ。

CRAFTの教科書的な言い方では、「依存行動には関わらない、素面の時間には温かく関わる」と表現される。冷たくするのではなく、反応の濃淡を切り替えるイメージに近い。

家族が学ぶ具体的な7つのスキルや、研究でわかっている効果、日本で受けられる場所については、家族用プログラムCRAFTとは?7つのスキルでまとめている。

「尻拭いしない」と「突き放す」の違い

この2つは似ているようで、実はかなり違う。

CRAFTの考え方で整理するとこうなる。

  • 依存行動の後始末はしない。ただし相手を責めたり、罰として何かを取り上げたりはしない
  • 素面で過ごしている時間、家事を手伝ってくれた時、穏やかに会話できた時には、ちゃんと温かく関わる
  • 家族の側もしんどいので、自分を守る工夫をする(相談機関や家族支援グループを使う、距離をとる時間を作る)
  • 暴力や自傷、深刻な事故など、安全が脅かされる状況は「自然な結末」には任せない

最後の点はCRAFTのマニュアルでも強調される。自然な結末に任せるのは、本人が死んだり他人を傷つけたりしないことが前提だ。暴力、自傷、泥酔での運転、幼い子どもへの影響などがあるときは、「尻拭いするな」の議論とは別の話になる。本人を治療につなげる以前に、自分や子どもの身を守るために物理的に距離をとる判断が先になる場合もある。ここは迷わず警察や医療、配偶者暴力相談支援センター(#8008でつながる)などにつなげていい。

家族のほうも変わる

CRAFTで特徴的なのは、本人が治療につながらなかった場合でも、家族自身の状態が改善することだ。

複数の研究で、CRAFTを受けた家族の抑うつ・不安・怒りの指標が改善したと報告されている。これは「家族が我慢する技術を身につけた」というより、家族が自分の生活を取り戻す過程がプログラムに明示的に含まれているからだ。依存症の家族は長いあいだ、本人の行動に振り回されて自分の楽しみや付き合いを後回しにしていることが多い。CRAFTでは、その部分を少しずつ戻していくワークが含まれる。

他人を応援した人ほど回復していたの記事で書いたように、人は自分が動くことで自分を取り戻す側面がある。家族についても、それは同じらしい。

まとめると

「尻拭いするな」は、部分的には正しい。後始末を続ける限り、本人が依存行動の結果に向き合う機会は減る。これは事実だ。

ただし、「突き放せば本人は変わる」「底まで落とせばいい」は、研究では支持されていない。依存症は脳の慢性的な変化が関わる疾患で、罰や恥、冷淡さでは動かない。むしろ害のほうが大きいことが多い。

いまの科学が示しているのは、もう少し繊細な立ち位置だ。依存行動には反応しない。後始末もしない。でも、本人が素面でいる時間や、まともな判断をしている時間には、ちゃんと関わる。そして家族自身もケアされる必要がある。

一人で抱え込まないほうがいい。日本でも、精神保健福祉センター、依存症相談拠点、保健所、ASKのような家族支援団体、藍里病院などCRAFTを導入している医療機関が増えつつある。「依存症相談窓口 地域名」で検索するだけでも、状況が動くことは多い。

家族が自分を削って支え続けても、本人は救われない。家族のほうも壊れていく。その構造から抜けるには、「尻拭い」をやめることと同じくらい、「自分を支える仕組みをつくる」ことが大事になってくる。


参考文献
  • Miller WR, Meyers RJ, Tonigan JS. Engaging the unmotivated in treatment for alcohol problems: a comparison of three strategies for intervention through family members. Journal of Consulting and Clinical Psychology. 1999;67(5):688-697.
  • White WL, Miller WR. The use of confrontation in addiction treatment: History, science, and time for change. Counselor. 2007;8(4):12-30.
  • 吉田精次, 小西友. 依存性物質使用障害者の家族に対するCRAFTの実績報告. 日本行動療法学会第41巻3号.
  • Foote J, Wilkens C, Kosanke N, Higgs S. Beyond Addiction: How Science and Kindness Help People Change. Scribner, 2014.
  • Smith JE, Meyers RJ. Motivating Substance Abusers to Enter Treatment: Working with Family Members. Guilford Press, 2004.
  • 吉田精次, 境泉洋. CRAFT 依存症者家族のための対応ハンドブック. 金剛出版, 2013.
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