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全体像と緊急対処 現実に向き合う 第22章

治療の選択肢の入口

本章は一般的な情報であり、個別の医療判断の代わりにはならない。具体的な治療方針は精神科の医師に相談すること。情報は2026年時点のもので、制度や機関の状況は変わる可能性がある。


昼休み。 会社の近くの喫茶店の隅。 スマホで「ギャンブル依存症 専門外来」と検索した。

久里浜医療センター、依存症専門外来、診療科のリスト。 何が違うのか、自分には分からない。

電話する前に検索結果を10分眺めた。 それから自助グループの記事を読んで、結局その日は電話しなかった。 家に帰ってから、夜ベッドの中で「明日の昼休みに電話する」と決めた。

翌日、本当に電話した。 出てくれた人は思っていたより普通の人だった。 「初めての電話なんですが」と言ったら「ありがとうございます」と返ってきた。 その日のうちに、初診の予約が取れた。


治療の選択肢は1つではない

ギャンブル依存の治療や支援には、複数の選択肢がある。 1つに決めなくていい。複数を組み合わせて使う人が多い。

主な選択肢:

  • GA(ギャンブラーズ・アノニマス): 当事者の自助グループ
  • 精神科・心療内科: 一般のクリニック
  • 依存症専門外来: 専門医療機関
  • 入院プログラム: 集中治療
  • 回復支援施設: 中長期の生活支援
  • 自治体の相談窓口: 精神保健福祉センター、保健所
  • 家族会(ギャマノン等): 家族向けの支援
  • アプリ・デジタルツール: 自己記録とコミュニティの補助

それぞれ役割が違う。次から1つずつ概要を書く。


GA(ギャンブラーズ・アノニマス)

GA は、ギャンブル依存当事者同士の自助グループである。 1957年にアメリカで始まり、日本では1989年から活動している。

  • 形式: 当事者同士のミーティング(週1回以上)
  • 全国に約200のグループ
  • 完全に無料
  • 予約不要、出入り自由
  • 顔出し不要、本名不要(ニックネームでよい)
  • 「ハイ、私はXX、ギャンブルの問題があります」から始まる
  • 12ステップという回復プログラムを使う

メリット:

  • 仲間ができる
  • 自分と同じ経験をした人の話が聞ける
  • 続けやすい
  • 無料
  • 病院に行く抵抗がある人でも入りやすい

デメリット:

  • 12ステップが宗教的に感じる人もいる
  • グループの雰囲気に合う合わないがある
  • 1回で「自分には合わない」と決めず、複数のグループを試すのが推奨される

最寄りグループは GA 日本のホームページで検索できる。


精神科・心療内科(一般クリニック)

街の精神科クリニックや心療内科でも、依存症の相談はできる。

  • アクセスしやすい(住んでいる近くにある)
  • 健康保険が使える
  • 初診は予約制が多い
  • 数千円から1万円前後(保険適用後)

メリット:

  • 行きやすい
  • 仕事帰りに行けるところもある
  • 薬の処方が必要な場合に対応できる

デメリット:

  • 依存症を専門にしていない医師もいる
  • ギャンブル依存に詳しくない場合、十分な治療が難しいことがある

事前に「ギャンブル依存の相談に対応していますか」と電話で確認するのが安心である。


依存症専門外来

依存症専門外来は、ギャンブル依存を含む依存症を専門的に扱う医療機関である。

代表的な機関:

  • 国立病院機構久里浜医療センター(神奈川県横須賀市): 日本の依存症医療の中心的存在
  • 各都道府県の依存症治療拠点機関: 厚労省の依存症対策事業で各都道府県に1つ以上指定されている
  • 精神保健福祉センターの専門相談窓口

メリット:

  • 専門性が高い
  • ギャンブル依存に特化したプログラム(集団療法、認知行動療法、家族支援など)
  • 同じ依存症の他の患者と関わる機会がある
  • 健康保険が使える

デメリット:

  • 数が少ない(地域によっては遠い)
  • 初診まで数週間〜数ヶ月待つことがある
  • 通院に時間がかかる

「自分の地域に依存症専門外来があるか」は、各都道府県の精神保健福祉センターに電話すれば教えてもらえる。


入院プログラム

依存症の入院治療は、短期から長期まで、いくつかのパターンがある。

  • 数週間の短期入院
  • 数ヶ月の中期プログラム
  • 自助グループとの連携プログラム

メリット:

  • 物理的に環境から完全に離れられる(パチンコ屋・スマホからも遮断される)
  • 集中的な治療と評価が受けられる
  • 共存症(うつ、不安など)の評価も同時にできる
  • 退院後の支援計画が組まれる

デメリット:

  • 仕事を休む必要がある
  • 費用が大きい(健康保険適用後でも数万〜数十万円)
  • 「入院」への心理的抵抗
  • 受け入れ可能な医療機関が限られる

入院は、外来治療で改善が難しい場合、共存症が重い場合、自殺リスクが高い場合、家族関係が破綻して環境が危険な場合などに検討される。


回復支援施設・リハビリ施設

医療機関ではなく、民間の回復支援施設という選択肢もある。 代表的なのは「ダルク(DARC: Drug Addiction Rehabilitation Center)」で、もともと薬物依存向けの施設だが、ギャンブル依存も受け入れているところがある。

  • 中長期(数ヶ月〜数年)の生活支援
  • 日中プログラム + 共同生活
  • 同じ経験をした仲間と暮らす

メリット:

  • 環境を完全に変えられる
  • 24時間体制の支援
  • 仲間との生活で孤立しない

デメリット:

  • 仕事との両立が難しい
  • 費用がかかる(公的支援を受けられる場合もある)
  • 共同生活への抵抗

外来治療や入院では足りない場合の選択肢。 「もう自分の力では生活を立て直せない」と感じている人にとって、強力な選択肢になる。


自治体の相談窓口

「どこから始めればいいか分からない」場合の最初の窓口がここである。

  • 精神保健福祉センター: 各都道府県・政令指定都市にある
  • 保健所: 各市町村にある
  • 市町村の障害福祉窓口

メリット:

  • 完全に無料
  • 電話相談から始められる(顔を見せずに済む)
  • 医療機関への紹介もしてくれる
  • 守秘義務があるので情報が外に漏れない

「電話で何を聞かれるか」を心配する人がいるが、難しいことは聞かれない。 名前は言いたくなければニックネームでもいい。 住んでいる地域だけ伝えれば、その地域で使える支援を教えてくれる。

最初の電話の例:

「ギャンブルのことで相談したいんですが、どこから始めればいいか分からなくて」

これだけで、相手は質問を返してくれる。


家族会・ギャマノン

家族向けの自助グループもある。 代表的なのが「ギャマノン」で、これは GA の家族版にあたる。

  • 当事者の家族(配偶者・親・子など)が参加する
  • 家族同士が経験を分かち合う
  • 当事者がいなくても、家族だけで参加できる

これは当事者本人ではなく家族のための支援だが、家族が支援につながることで、家全体の状況が変わることが多い。 本書の対象は当事者だが、家族にも知っておいてほしいリソースである。


アプリ・デジタルツール

近年、依存症回復を支援するスマートフォンアプリが少しずつ増えてきた。 これらは医療機関の代わりにはならないが、医療機関に行く前のステップとして、あるいは医療機関と並行して使う補助的なツールとして役立つことがある。

QuitMate

QuitMate は、ギャンブル依存を含む各種依存症の回復を支援する日本のスマートフォンアプリである。

主な機能:

  • 断行動の記録(ストリーク管理)
  • 当事者同士のコミュニティ(投稿・コメント・いいね・フォロー)
  • 再発の記録と振り返り
  • 自分や他人の体験談を読む / 書く
  • カテゴリ別の登録(ギャンブル、アルコール、ニコチン、ポルノなど複数)

特徴:

  • 完全に無料で始められる
  • 顔出し・本名不要(ニックネームでよい)
  • 24 時間使える
  • 約 8,000 人のユーザー(2026 年時点)

メリット:

  • 医療機関に行く前の最初の一歩として使いやすい
  • 夜中など、人に頼れない時間帯でも開ける
  • 同じ経験をしている当事者の体験を読める
  • 自分の再発や継続日数を可視化できる

デメリット:

  • アプリだけでは医療的な評価や治療はできない
  • 重症の場合は医療機関を併用する必要がある
  • アプリ単独で「治る」わけではない

アプリと医療機関の関係

アプリは医療機関の代わりにはならない。 だが、「医療機関に行く前のステップ」あるいは「医療機関と並行して使う補助ツール」としては有効な場合がある。

実際の組み合わせ方の例:

  • 最初の数週間はアプリで自己記録を始めて、自分の状態を把握する
  • 並行して GA を1度見学する
  • それでも難しいなら、依存症専門外来に予約を取る
  • 通院しながら、日々の記録はアプリで続ける

アプリ・自助グループ・医療機関を組み合わせて使うと、それぞれの弱点を補える。 どれか1つに頼るよりも、複数の入口を持っておくほうが回復は安定する。


どこから始めればいいか

選択肢が多くて迷う場合の判断軸:

状況おすすめの最初の一歩
まず自分で記録から始めたいスマホアプリ(QuitMate 等)
どこから始めればいいか全く分からない精神保健福祉センターに電話
地域の医療機関を知りたい精神保健福祉センターまたは保健所
専門的な治療を受けたい依存症専門外来
仲間が欲しいGA の見学
物理的に離れたい入院プログラムまたは回復支援施設
家族と話せない家族会・ギャマノン(家族向け)
借金問題が中心法テラス(第19章参照)

すべてを最初に検討しなくていい。 1つから始めて、合わなければ次を試す。 複数を同時に組み合わせる人も多い(例: 専門外来 + GA、入院後に GA、相談窓口 + 一般精神科)。


「治療を受ける」のハードルを下げる

「治療を受ける」には、特殊なイメージがついて回る。 精神病院、長期入院、特殊な治療。 そのイメージのせいで、ハードルが高く感じられる。

実際の入口は、もっと普通である。

  1. 電話する
  2. 予約を取る
  3. 当日、受付で問診票を書く
  4. 医師と話す
  5. 必要に応じて次の予約を取る

これだけ。風邪で病院に行くのと、流れはあまり変わらない。 最初の診察は30分から1時間ほど。 深刻な顔をする必要はない。 何をしてきたかを正直に話せばいい。

医師やスタッフは、毎日依存症の患者を診ている。 何を話しても驚かない。何を話しても受け止められる。 「こんなことを話したら怒られるのでは」という心配は、ほぼ要らない。


参考文献
  • 国立病院機構久里浜医療センター. ギャンブル依存症治療プログラム. https://kurihama.hosp.go.jp/
  • ギャンブラーズ・アノニマス日本インフォメーションセンター. http://www.gajapan.jp/
  • 厚生労働省. 依存症対策. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000070789.html
  • 厚生労働省. 精神保健福祉センター 一覧.
  • 日本ダルク. https://darc-ic.com/
  • ギャマノン日本インフォメーションセンター. https://www.gam-anon.jp/
  • 田辺等 (2002). ギャンブル依存症. 生活人新書.
  • 帚木蓬生 (2014). ギャンブル依存とたたかう. 新潮選書.
  • Petry, N.M. (2005). Pathological Gambling: Etiology, Comorbidity, and Treatment. American Psychological Association.
  • Cowlishaw, S., Merkouris, S., Dowling, N., Anderson, C., Jackson, A., & Thomas, S. (2012). Psychological therapies for pathological and problem gambling. Cochrane Database of Systematic Reviews, 11, CD008937.
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