QuitMate QuitMate
全体像と緊急対処 自分の状態を知る 第1章

ギャンブル依存は意志の弱さではない

深夜1時のコンビニ、ATMの前で立ち尽くしていた。画面には「残高 1,200円」とだけ出ている。給料日は来週。

なんでこうなったんだろう、と頭の中で繰り返していた。今日もパチンコ店に入った理由を、自分でうまく説明できなかった。「やめよう」と決めて店を出たのは、もう何百回目か。

意志が弱いのか、性格に問題があるのか。最初に行った日の自分に説教したかった。

そう感じるところまで来た人は、たいてい同じ結論に行き着く。「これは意志か性格の問題だ」と。だがその結論は、いまの医学では正しくない。性格や根性の話ではなく、脳の中で起きていることの話である。


ギャンブル依存は医学的な「病気」である

ギャンブル依存が「依存症」として正式に分類されたのは、意外と最近のことだ。2013年、アメリカ精神医学会が診断基準を改訂した際に、ギャンブル依存はそれまでの「衝動が抑えられない癖」(万引きや放火と同じ枠)から、アルコールや薬物と同じ「依存症」の枠へと移された。2019年にはWHOも同じ判断をしている。

なぜそうなったか。20年にわたる脳の研究で、ギャンブル依存の脳がアルコール依存やコカイン依存と同じ場所・同じ仕組みで変化していることがわかってきたからだ。生物学的に言えば、パチンコでも酒でもコカインでも、脳の中で起きていることは似ている。

日本についても触れておく。厚生労働省が2021年に行った調査では、過去1年でギャンブルの問題行動が見られた人は約196万人(約2.2%)と推計されている。世界平均が1.5%程度であるのに対して、日本はそれを上回る。理由はシンプルで、パチンコとパチスロが街中のどこにでもあるからだ。2018年には「ギャンブル等依存症対策基本法」が施行され、国も「これは個人の責任だけで片付けられる問題ではない」と認めている。


脳の中で起きていること

ギャンブルを長年続けると、脳は物理的に変わる。性格や意志の話ではなく、細胞レベルの働きが変わるのだ。

変化は大きく3つある。

1つ目は、ドーパミンが過剰に出るようになることだ。ドーパミンは本来、食事や運動、人とのつながりといった生存に必要な行動をしたときに出て、「やりたい」「もっと欲しい」という感覚を作る物質である。ギャンブル依存になると、パチンコ店の音やスロットの絵柄に対しても、普通の人の1.5倍から2倍の強さでこれが出るようになる。アクセルが勝手に踏まれるような状態、と言えばわかりやすいかもしれない。

2つ目は、そのアクセルを抑えるはずのブレーキの機能低下である。額のすぐ裏にある前頭前野は、衝動を抑える役割を持っている。「ここで止まろう」と判断する働きだ。ギャンブル依存ではこの前頭前野の働きが2割から3割落ちることが、複数の研究で報告されている。踏んでいるつもりでも、踏み込みが浅い。

3つ目は、特定の場面そのものが「やりたい」の引き金になることだ。パチンコ店の音、スロット台の振動、店内の匂い、競馬中継の実況、スマホのログイン画面。こうしたものはすべて、脳にとって「報酬の前触れ」として強く記憶される。そしてその前触れを見聞きしただけで、さきほどのアクセルが勝手に踏まれる。本人が「やめよう」と思っているかどうかは、ここでは関係がない。

この3つは別々に起きているわけではなく、同時に起きている。アクセルは強く踏まれ、ブレーキは効きが悪く、そこにきっかけが次々と入ってくる。そういう状態になった脳を、「やめよう」という思考だけでコントロールできるはずがない。意志の強弱で説明できる話ではないのだ。


なぜギャンブルなのか

すべての人がギャンブルで依存になるわけではない。なりやすいギャンブルとそうでないものがあって、なりやすい条件は決まっている。主に4つだ。

1つ目は、いつ結果が出るかわからないこと。報酬が「予測できないとき」にこそ、行動はもっとも強く持続する。パチンコ、パチスロ、オンラインカジノはまさにこの仕組みの上で動いている。出るかもしれないし、出ないかもしれない。この不確実性が、先ほどのアクセルを最大に刺激する。

2つ目は、結果がすぐに出ること。1回のスピンは数秒で終わり、次もすぐに始められる。1時間で数百回、1日で数千回の「やる→結果→またやる」のループを脳が経験する。競馬が数十分に1レース、宝くじが週1回であることを思えば、パチンコやスロットのほうが依存になりやすい理由が見えてくる。

3つ目は、「あと少しで当たり」という場面が頻繁にあることだ。リーチの演出、スロットのテンパイ、スポーツベッティングの「あと1点」。どれも結果としては外れなのに、脳のアクセル役は実際に当たったときに近い反応をする。外れたはずなのに「もう少し」という記憶が残り、それが「もう一度やりたい」という強い動機になる。

そして4つ目は、物理的にも時間的にも、すぐ手が届く場所にあること。パチンコ店は日本に約7,000店舗あり、徒歩圏にあるエリアも多い。オンラインカジノや公営競技のネット投票は24時間スマホから開ける。「やりたい」と思った瞬間の障壁が、ほぼゼロに近い。

この4つが揃うギャンブルは、脳の変化を起こしやすい。酒やタバコが誰にでも等しく依存を引き起こすわけではないのと同じで、もちろん個人差はある。だが条件が揃えば、意志の強弱の問題ではなく確率の問題として、多くの人がやめられなくなる。


脳の変化は元に戻る

ここまで「脳が物理的に変わる」と書いてきたが、この変化は固定されたものではない。

脳は使い方によって変わる性質を持っている。ギャンブルを続ければギャンブル仕様の脳になり、断ち続ければ元の方向へゆっくり戻っていく。物質依存でも行動依存でも、断ち続けることで脳の機能が回復することが、すでに複数の研究で確認されている。

どの機能がどのくらいの時間で戻るかは後の章で扱う。いまは「戻る」という事実だけ覚えておけば足りる。


本書について

最後に、本書の全体像を短く話しておきたい。本書は27章で構成されている、回復の最初の足場を作るためのガイドである。自分の状態を知ることから始まり、行動を始め、引き金に対するスキルを学び、現実と向き合い、そして立て直しを始める、という順序で進んでいく。

順番どおりに読む必要はない。必要だと感じた章から読んで構わない。ただし本書は、第1章から順に読むことで理解が少しずつ積み上がっていくように設計してある。迷っているなら、そのまま順に読み進めてほしい。

そのなかで、どうしても後回しにできない章が2つある。お金へのアクセスを遮断する話(第6章)と、「死にたい」と思ったときの安全計画(第8章)だ。いま強い危機感がある人は、先にこの2章から読むことをお勧めする。


参考文献
  • American Psychiatric Association (2013). Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders (5th ed.). American Psychiatric Publishing.
  • World Health Organization (2019). International Classification of Diseases, 11th Revision (ICD-11). https://icd.who.int/
  • 厚生労働省 (2021). 令和3年度 ギャンブル等依存症の実態調査.
  • ギャンブル等依存症対策基本法 (2018). 平成30年法律第74号.
  • 警察庁 (2023). 令和5年中における風俗営業等の現状.
  • Volkow, N.D., Koob, G.F., & McLellan, A.T. (2016). Neurobiologic Advances from the Brain Disease Model of Addiction. New England Journal of Medicine, 374(4), 363-371.
  • Potenza, M.N. (2014). The neural bases of cognitive processes in gambling disorder. Trends in Cognitive Sciences, 18(8), 429-438.
  • Calado, F., & Griffiths, M.D. (2016). Problem gambling worldwide: An update and systematic review of empirical research (2000-2015). Journal of Behavioral Addictions, 5(4), 592-613.
  • Clark, L., Lawrence, A.J., Astley-Jones, F., & Gray, N.A. (2009). Gambling near-misses enhance motivation to gamble and recruit win-related brain circuitry. Neuron, 61(3), 481-490.
  • Skinner, B.F. (1953). Science and Human Behavior. Macmillan.
X で共有 LINE
QuitMateアプリのカテゴリ選択画面
QuitMateアプリのコミュニティ投稿画面
QuitMateアプリの回復プログラム画面
QuitMate

QuitMate

共になら、やめられる

同じ悩みを持つ仲間と匿名で支え合える依存症克服コミュニティアプリ。禁酒・禁煙・禁ギャンブルなど、一人じゃないから続けられる。