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全体像と緊急対処 いま、動き出す 第6章 必読 ⚠️

お金のアクセスを遮断する

本章は一般的な情報であり、個別の借金問題は弁護士・司法書士・法テラスに相談すること。


給料日の朝。 スマホが鳴る。「給料が振り込まれました」の通知。 画面を見た瞬間、首の後ろが熱くなった。 3日前に「もうやめる」と決めたばかりだった。

家族にバレないように、給料から1万円だけ抜こう。 1万円なら気づかれない。1万円なら、まあ大丈夫だろう。 ATMで1万円を下ろし、駅前のパチンコ屋に向かう。 スロットコーナーの空いている台に座る。

夕方には、10万円使い切っている。 1万円のはずが、ATMに何度も戻った。 帰り道で頭の中はぐちゃぐちゃで、家族に何と言うかを考えながら歩いた。

何百回も繰り返した場面である。 3日前の決意は、給料の通知ひとつで消えた。 意志の問題ではない。 お金にアクセスできたかどうか、それだけの問題だった。


なぜ「お金の遮断」が最初なのか

ギャンブル依存の脳は、前章までで見たように、ブレーキ役の働きが落ちている。 渇望が来たとき、頭で「やめよう」と判断するのは難しい。 判断できないのなら、判断する前に「物理的にできない」状態にしておく。これがいちばん確実な方法である。

これは「自由を制限する」ことではない。 渇望が来ても行動できない仕組みを先に作っておくことで、未来の自分を守る装置である。意志の力でなんとかしようとする発想を、ここで一度手放す。

回復の最初の数日が特に重要である。 依存症の研究では、断行動を始めた直後の数日間がもっとも再発しやすいとされている。だからこそ、決意した日のうちに、お金へのアクセスを物理的に止めておく。

「自分を信じない」のではない。 「いまの脳の状態を信じない」。 脳が回復してきたら、自分をまた信じられるようになる。それまでの一時的な仕組みである。


今夜できる最低限(30分以内)

決意した日のうちにやる項目を並べる。 全部できれば理想だが、無理ならまず1つ。1つでもやれば、今夜の自分の状態は変わる。

クレジットカードのキャッシング枠をゼロにする

ほとんどのクレジットカードはアプリやウェブから設定できる。「キャッシング利用枠」を 0 円に変更する。 変更が反映されるまで数日かかる場合があるが、申請した時点で抑止になる。

消費者金融のカードを物理的に処分する

アコム・プロミス・アイフル・SMBCモビット等のカードは、物理的に切る。家族に預ける。シュレッダーにかける。 カードがなくても店舗で借りられる場合があるが、即座に借りるハードルは大きく上がる。

オンライン決済アプリの上限を下げる

PayPay、楽天ペイ、d 払い、au PAY 等の決済アプリ。チャージ上限を下げるか、銀行口座との連携を解除する。 これらのアプリで競馬・競輪・ボートのネット投票に直接チャージできる場合がある。

ギャンブル系アプリ・サイトを物理的に消す

  • スマホのアプリをアンインストール
  • ブラウザのブックマークを削除
  • パスワード自動入力(iCloud キーチェーン、Google パスワード)を解除
  • メール購読を解除
  • スマホの「最近見たサイト」履歴を消す

これは「あとで戻れる状態」を残さないための作業である。

公営競技のネット投票口座を停止する

  • JRA の即PAT、地方競馬の SPAT4
  • ボートレースの TELEBOAT
  • 競輪の Kドリームス
  • それぞれのサービスのマイページから「利用停止」または「退会」を選ぶ
  • 銀行口座との連携を必ず解除する

オンラインカジノ・ブックメーカーのアカウントを閉じる

オンラインカジノは日本国内では違法だが、当事者は多い。

  • アカウントの「自己除外」機能を使う(多くのサイトに用意されている)
  • 入金に使ったクレジットカードや暗号資産ウォレットの紐付けを解除する

1週間以内にやる中期の遮断

今夜だけでは足りない。1週間以内に、生活全体の構造を変える。

銀行口座の引き出し限度額を下げる

ほとんどの銀行は、ATM の1日あたりの引き出し限度額を変更できる。 ネットバンキングや窓口で、限度額を 1日 1万円程度まで下げる。 これだけで「ATM に何度も戻る」パターンが物理的に止まる。

給料の振込先を「触れない口座」にする

理想は、家族名義の口座に振り込んでもらうことである。 自分名義しか使えない場合は、ATM カードを家族に預ける、暗証番号を家族に変更してもらう等の方法がある。 給料日に「振込通知」を見る前に、お金が手の届かないところに移動している状態を作る。

家族 or 信頼できる人にカード・通帳・印鑑を預ける

クレジットカード、キャッシュカード、通帳、印鑑、運転免許証(消費者金融で本人確認に使われる)。 これらをすべて家族に預ける。 「全部」が大事である。1枚だけ手元に残すと、必ずそれが使われる。

信用情報機関への自己申告(貸付自粛制度)

これは強力な手段である。 日本には JICC(日本信用情報機構)と CIC という信用情報機関があり、自分から「貸付自粛」を申し出ることができる。 登録すると、5年間にわたって、新しいクレジットカード・ローン・キャッシングの審査が通らなくなる。 申し込みは無料で、JICC・CIC の窓口や郵送で可能である。

ただし、住宅ローン等の正当な借入にも影響する。家族と相談してから決めるのが望ましい。


家族への説明

お金を家族に預けるとき、家族の側にも準備が必要である。 「お金を全部預けるから」と一方的に言うと、家族は混乱する。

何を伝えるか

最低限、次の3点を伝える。

  1. 自分はギャンブル依存という病気である
  2. 治療の一環として、お金へのアクセスを物理的に断つ必要がある
  3. これは恥ずかしい話だが、いま助けてほしい

完璧な説明はいらない。短くて構わない。

ルールを決める

預けるだけでは続かない。いくつかのルールを取り決める。

  • 月の小遣い額(昼食代、交通費、最小限の交際費)
  • 領収書を見せる頻度
  • 急な出費があったときの相談方法
  • 定期的に通帳を一緒に見る時間

「全部監視されている」感覚を減らし、家族側の負担も軽くするための合意である。

透明性を保つ

家計簿アプリで支出を共有する。レシートをまとめて見せる。 隠し事をしないことが、家族との関係を立て直す最初の一歩である。


家族管理ができない場合

一人暮らし、家族と疎遠、家族に言えない事情がある人もいる。 そのときの選択肢:

  • GA(ギャンブラーズ・アノニマス)の仲間 に預ける
  • 依存症専門の医療機関 や精神保健福祉センターのケースワーカーに相談する
  • 法テラス に法的整理と並行して相談する
  • 専用の口座管理サービス を使う(一部の銀行や信託会社にある)
  • 給料を現金で受け取る ことができないか勤務先に相談する

「家族に言えないからできない」と思うかもしれないが、家族以外の選択肢は必ずある。 どの方法も恥ずかしいと感じるかもしれない。だが恥より優先するものがある。


抜け道を残さない

「念のため、1枚だけカードを残しておこう」 「アプリは消すけど、ブラウザでまだログインできるからまあいい」 「家族には9割預けて、1割だけ自分で持っておこう」

これらの考えは、必ず使われる。 渇望が来た瞬間に、抜け道は最初に思い出される。 「1枚だけ」のカードは、3日後には限度額いっぱいになっている。 「ブラウザのログイン」は、明日の夜には開いている。 「1割の現金」は、給料日の翌日にはなくなっている。

理由は単純で、ギャンブル依存の脳は「最後の一線」を超えることに慣れているからだ。 完全に遮断する。心理的な「逃げ道」を残さない。

抜け道を残すことは、未来の自分が裏切らない前提を持っているという意味になる。 だが脳の状態を考えると、未来の自分は高い確率で裏切る。 遮断は、未来の自分への不信ではなく、脳の科学的な事実への対応である。


すでに借金がある場合

本章は「これからの新しい借金を防ぐ」ことが中心である。 すでに借金がある場合は、それとは別に「借金の認識と整理」が必要になる。 これは後の章「借金の全体像」で扱う。法的整理の具体論については、今後公開されるパートで詳しく扱う予定である。

ただし、いますぐ知っておいてほしいのは次の3つ。

  1. 借金は自分一人で抱えなくていい。法テラスは無料相談ができる
  2. 法的整理という選択肢がある。任意整理、個人再生、自己破産。それぞれ条件と影響が違う
  3. 借金額を確認するだけでも一歩である。多くの人が「総額がわからない」状態に追い込まれている

参考文献
  • ギャンブル等依存症対策基本法 (2018). 平成30年法律第74号.
  • 厚生労働省 (2021). 令和3年度 ギャンブル等依存症の実態調査.
  • 国立病院機構久里浜医療センター. ギャンブル依存症治療プログラム.
  • 日本貸金業協会 (2019). 貸付自粛制度の手引き.
  • 日本信用情報機構 (JICC). 貸付自粛制度について.
  • 株式会社シー・アイ・シー (CIC). 貸付自粛制度について.
  • 法テラス(日本司法支援センター). 債務整理に関する相談案内.
  • Ladouceur, R., Lachance, S., & Fournier, P.M. (2009). Is control a viable goal in the treatment of pathological gambling? Behaviour Research and Therapy, 47(3), 189-197.
  • Hodgins, D.C., Stea, J.N., & Grant, J.E. (2011). Gambling disorders. The Lancet, 378(9806), 1874-1884.
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