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全体像と緊急対処 現実に向き合う 第16章

メンタルヘルスと依存: 共存症

本章は一般的な情報であり、診断の代わりにはならない。気になる症状があれば、精神科または心療内科に相談すること。


朝7時。 布団から出るのに、30分かかった。 出社の準備をしている間、ずっと体が重い。 電車の中で「今日もまた8時間か」と思った瞬間、涙が出た。

職場で人と話すのがしんどい。 昼休み、誰とも話したくないので、一人で外に出る。 気がついたら、駅前のパチンコ屋の前にいた。 打っている2時間だけ、何も考えなくてすんだ。

「うつかも」と何度か思ったが、病院に行くほどではないと思っていた。 ギャンブルだけが問題だと思っていた。 ギャンブルがなければ、自分は普通に過ごせるはずだと思っていた。 本当はその逆だった、ということに気づくまでに、何年もかかった。


依存は単独で起きないことが多い

ギャンブル依存は、他のメンタル不調と同時に起きることが多い。 これを「共存症」(comorbidity) と呼ぶ。

研究では、ギャンブル依存当事者の半数以上に、うつ病・不安障害・ADHD・他の依存症などの共存症があるとされている。 日本の調査でも、似た数字が出ている。

つまり、ギャンブル依存だけを持っている人は少数派で、ほとんどの当事者は他の何かを同時に抱えている。 この事実は、ほとんど語られない。 本人もそれに気づかないことが多い。

「ギャンブルさえやめれば、自分は普通だ」と思っていると、共存症が見えなくなる。 ギャンブルがなくなった後に、うつや不安が表面に出てくる人もいる。 それは「ギャンブルをやめたら悪化した」のではなく、「ギャンブルが共存症を覆い隠していた」だけである。


うつ病と依存

数字

ギャンブル依存当事者のうち、うつ病を併発している割合は、研究によって25%〜75%と幅があるが、概ね半数前後とされている。 一般人口でのうつ病の割合(10%前後)と比べて、明らかに高い。

うつ病のサイン

次のような状態が2週間以上続いている場合、うつ病の可能性がある。

  • 朝、起きるのが辛い
  • 何をしても楽しくない
  • 食欲がない(または食べすぎる)
  • 眠れない(または寝すぎる)
  • 体が重い、疲れやすい
  • 集中できない
  • 自分を責める考えが頭から離れない
  • 「死にたい」「消えたい」が頭をよぎる
  • 人と会うのがしんどい

これらの一部は、ギャンブル依存の症状と重なる。 だから、本人には「依存の症状」と「うつ病の症状」が区別できない。 区別するのは、医師の役割である。

ギャンブルとの関係

うつ病とギャンブルは、互いを強化する関係にある。

  • うつ病で気分が落ちる → 「気分を変えたい」とギャンブルに向かう
  • ギャンブルで負ける → 罪悪感と恥でうつが深まる
  • うつが深まる → さらにギャンブルに逃げる

このループの中で、両方が悪化していく。 どちらが先かは分からない場合が多いが、両方を同時に治療する必要がある。


不安障害と依存

数字

ギャンブル依存当事者の3〜5割が、不安障害を併発しているとされている。 不安障害には、全般性不安障害、社交不安障害、パニック障害、PTSD など複数の種類がある。

不安障害のサイン

  • 些細なことが気になって落ち着かない
  • 心臓がドキドキする、息が苦しくなる発作がある
  • 人前に出るのが極端に怖い
  • 特定の場所や状況を避けてしまう
  • 過去の辛い出来事が頭から離れない
  • 寝つきが悪い、夜中に目が覚める

ギャンブルとの関係

不安が強い人にとって、ギャンブル中の「集中している時間」は、不安から逃げる時間になる。 ギャンブル中は、過去の不安も未来の不安も、頭から消える。 だから不安障害の人は、ギャンブルへの依存が深まりやすい。

逆に、ギャンブルをやめると、抑え込んでいた不安が一気に表面に出てくることがある。 この時期がもっとも辛く、再発の引き金になる。 この段階で医療につながると、不安に対する治療が並行で進められる。


ADHD と依存

数字

注意欠陥多動性障害(ADHD)とギャンブル依存の関連も、研究で指摘されている。 ギャンブル依存当事者の2〜4割に、ADHD またはその傾向があるとされている。 これは一般人口(数%)と比べてかなり高い。

ADHD のサイン

大人の ADHD には、次のような特徴がある。

  • 集中が続かない、気が散りやすい
  • 計画を立てて実行するのが苦手
  • 細かいミスが多い
  • 待つのが苦手
  • 衝動的に行動してしまう
  • 強い刺激を求めがち
  • 退屈に弱い

ギャンブルとの関係

ADHD の脳は、ドーパミンの伝達に特徴がある。 普段の生活では刺激が足りず、強い刺激を求めやすい。 ギャンブルの「結果がすぐに出る」「強い視聴覚刺激」「不確実性」は、ADHD の脳にとって特に魅力的になる。

そして衝動性が高いため、ブレーキが効きにくい。 「ちょっとだけ」と思って入った店で、限界まで打ち続けてしまう。

ADHD は治療できる。 専門医による評価と、必要に応じて薬物療法・行動療法が組み合わされる。 ADHD を治療することで、ギャンブル依存の治療も進みやすくなることが報告されている。


その他の共存症

他の依存症

ギャンブル依存当事者の多くは、別の依存も抱えている。

  • アルコール依存
  • ニコチン依存
  • カフェイン依存
  • 性依存
  • ゲーム依存
  • 買い物依存

これは「依存症の脳」が共通の脳の状態であることを反映している。 1つの依存をやめると、別の依存に置き換わる「依存の交換」が起きることもある。

トラウマと PTSD

過去のトラウマ(虐待、事故、戦争、喪失体験など)が、依存の背景にあることもある。 トラウマと依存の関係は深い。トラウマが背景にあると感じる場合は、トラウマ治療に詳しい精神科医・心理士・カウンセラーに相談する。本書はトラウマの治療を扱う本ではないが、医療につながることが回復の大きな一歩になる。

双極性障害

気分の浮き沈みが激しい双極性障害も、ギャンブル依存との関連が報告されている。 特に「気分が高揚する時期」(躁状態)に、ギャンブルへの衝動が強くなる。 診断と薬物療法が必要な疾患である。


共存症と自殺リスク

第8章で扱った通り、ギャンブル依存当事者の自殺リスクは一般人口の3〜4倍である。 このリスクをさらに押し上げるのが、共存症である。

うつ病・不安障害・PTSD・他の依存症などが重なっているほど、自殺リスクが高くなる。 逆に言えば、共存症を治療することで、自殺リスクを下げることができる。

「ギャンブルだけ何とかすればいい」と考えていると、自殺リスクの本当の大きさが見えない。 共存症を含めた全体像を医療で評価してもらうことが、命を守る道筋でもある。


自分のサインに気づく

セルフチェックは入口

簡単なセルフチェックで、共存症の可能性に気づくことができる。 たとえば次のような問いに、過去2週間で当てはまる数を数える。

  • □ 朝、起きるのが辛い
  • □ 何をしても楽しくない
  • □ 食欲が変わった(増えた / 減った)
  • □ 眠れない、または寝すぎる
  • □ 体が重く、疲れやすい
  • □ 集中できない
  • □ 自分を責める考えが頭から離れない
  • □ 人と会うのが苦痛
  • □ 「死にたい」「消えたい」が頭をよぎる
  • □ 些細なことに落ち着かない
  • □ 動悸や息苦しさの発作がある
  • □ 過去の辛い出来事が頭から離れない

3つ以上当てはまる場合、または「死にたい」が頭をよぎる場合は、精神科または心療内科に相談する目安になる。

ただしセルフチェックは診断ではない

セルフチェックは「気づくきっかけ」である。 診断ではない。 診断は、医師にしかできない。

「自分はうつ病だ」と決めつけたり、「セルフチェックでは大丈夫だから自分は問題ない」と決めつけたりせず、気になるサインがあれば医療機関で相談する。

「ギャンブルの相談」と一緒に伝えるだけでいい

精神科や依存症外来で「ギャンブルの相談に来ました」と伝えれば、医師はうつ・不安などの共存症も同時に評価する。 あえて「うつ病かもしれません」と言う必要はない。 ありのままの状態を話せば、必要な評価をしてくれる。


参考文献
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  • Petry, N.M., Stinson, F.S., & Grant, B.F. (2005). Comorbidity of DSM-IV pathological gambling and other psychiatric disorders: results from the National Epidemiologic Survey on Alcohol and Related Conditions. Journal of Clinical Psychiatry, 66(5), 564-574.
  • Kessler, R.C., Hwang, I., LaBrie, R., Petukhova, M., Sampson, N.A., Winters, K.C., & Shaffer, H.J. (2008). DSM-IV pathological gambling in the National Comorbidity Survey Replication. Psychological Medicine, 38(9), 1351-1360.
  • Crockford, D.N., & el-Guebaly, N. (1998). Psychiatric comorbidity in pathological gambling: A critical review. Canadian Journal of Psychiatry, 43(1), 43-50.
  • Brewer, J.A., & Potenza, M.N. (2008). The neurobiology and genetics of impulse control disorders: Relationships to drug addictions. Biochemical Pharmacology, 75(1), 63-75.
  • Faraone, S.V., Asherson, P., Banaschewski, T., et al. (2015). Attention-deficit/hyperactivity disorder. Nature Reviews Disease Primers, 1, 15020.
  • Karlsson, A., & Håkansson, A. (2018). Gambling disorder, increased mortality, suicidality, and associated comorbidity. Journal of Behavioral Addictions, 7(4), 1091-1099.
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