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全体像と緊急対処 現実に向き合う 第19章

法的整理への入口

本章は一般的な情報であり、個別の判断は弁護士・司法書士に相談すること。本章は専門家による監修が望ましいセクションである。情報は2026年時点のもので、制度は変わる可能性がある。


法律事務所の応接室。 弁護士は40代の女性だった。 書類を見ながら、何の表情も崩さずに話す。

「お客様の状況なら、自己破産がいちばん合っていると思います」

自分の中で何かが崩れた。 「破産」という言葉に、20年近く怯えてきた。 家族には言えない、職場には絶対にバレられない、そう思ってきた。

弁護士は続けた。 「ギャンブルが原因の借金でも、自己破産は使えます。手続きは少し複雑になりますが、できます」 「破産すれば、いまの借金はゼロになります。そこから生活を立て直していけます」

その日の帰り道、駅前のパチンコ屋の前を通った。 体は反応した。 だが、店に入らなかった。 「破産する」と決めた人間が、その日にまた打ち始めるわけにはいかない、と思った。


法的整理とは

法的整理とは、法律の制度を使って借金を整理する仕組みである。 日本では主に4つの方法がある。

  1. 任意整理: 業者と個別に交渉して、利息や返済条件を変えてもらう
  2. 特定調停: 簡易裁判所を通して、業者と返済条件を調停する
  3. 個人再生: 裁判所を通して、借金を5分の1〜10分の1に圧縮する
  4. 自己破産: 裁判所を通して、借金をゼロにする

それぞれ条件、効果、影響が違う。 自分の状況に合った選択肢を選ぶ必要がある。 どれを選ぶかは、弁護士・司法書士と相談して決める。


任意整理

仕組み

借金のある業者と個別に交渉して、

  • 利息をカット
  • 残債を分割払い(3〜5年)

これで毎月の返済額を下げる方法である。 裁判所を通さない、もっとも軽い整理方法である。

メリット

  • 手続きが比較的早い(数ヶ月)
  • 一部の業者だけを対象にできる(住宅ローンや車のローンを除外できる)
  • 手続き費用が他より安い(1社あたり数万円)
  • 家族にバレにくい
  • 仕事に影響しない

デメリット

  • 借金の元本はそのまま残る
  • 信用情報に5年間記録が残る(その間、新しいクレジットカード・ローンは作れない)
  • 業者が応じない場合がある

向いている人

  • 借金の総額が比較的少ない(数百万円以下)
  • 安定した収入があって、3〜5年で返済できる見込みがある
  • 住宅ローンを残したい
  • 自己破産には抵抗がある

特定調停

仕組み

簡易裁判所を通して、業者と返済条件を調停する方法である。 任意整理に近いが、裁判所が仲介する。

メリット

  • 弁護士・司法書士に頼まず、自分でできる
  • 費用が安い(裁判所への実費のみ、数千円)
  • 利息がカットされる

デメリット

  • 自分で書類を作って裁判所に行く必要がある
  • 業者との交渉に時間と労力がかかる
  • 信用情報には記録が残る

向いている人

  • 借金の総額が少ない
  • 弁護士費用を払うのが難しい
  • 自分で手続きを進められる時間と気力がある

個人再生

仕組み

裁判所を通して、借金の総額を 5分の1〜10分の1に圧縮 する方法である。 圧縮された残債を、3年(最長5年)で分割返済する。

たとえば借金 500万円が、100万円程度まで圧縮されることもある。 住宅ローンは別枠で、家を残したまま整理できる「住宅ローン特則」もある。

メリット

  • 借金が大きく減る
  • 家を残せる場合がある
  • 仕事への影響が少ない(資格制限がない職種が多い)
  • 自己破産より社会的な印象が軽い

デメリット

  • 手続きが複雑(数ヶ月〜1年)
  • 弁護士・司法書士の費用が高い(数十万円)
  • 安定した収入がないと使えない
  • 信用情報に5〜10年記録が残る
  • 官報に名前が載る

向いている人

  • 借金が大きい(数百万円〜数千万円)
  • 安定した収入がある
  • 家を残したい
  • 自己破産は避けたい

ギャンブル依存との関係

個人再生は、ギャンブル依存が原因の借金でも使える。 自己破産と違って、ギャンブルが原因であっても認められないということはない。


自己破産

仕組み

裁判所を通して、借金をゼロにする 方法である。 正式名称は「破産手続開始の申立て」と「免責許可の申立て」の2段階。 免責が許可されれば、税金などの一部を除いて、ほぼすべての借金が消える。

メリット

  • 借金がゼロになる
  • 取り立てが止まる
  • 生活を立て直すスタートラインに立てる
  • 同時廃止という簡易な手続きを使える場合がある

デメリット

  • 一定額以上の財産(家、車、貯金)は処分される
  • 信用情報に5〜10年記録が残る
  • 官報に名前が載る
  • 一部の職業で資格制限がある(弁護士、警備員、保険外交員など)
    • ただし会社員には影響しない
  • 手続き中は引っ越しや海外旅行に制限がある場合がある

向いている人

  • 借金が大きすぎて返済不能
  • 安定した収入がない、または収入が少ない
  • 月の返済額が手取りの大半を占めている
  • 生活が成り立たない状態

ギャンブル依存と自己破産

ギャンブルが原因の借金でも、自己破産は使える。

法律上、ギャンブルは「免責不許可事由」のひとつにリストされている。 これを読んで「ギャンブルが原因なら自己破産できない」と思う人が多い。

実際には、ほとんどのケースで「裁量免責」という制度によって免責が認められる。 裁判所は、本人が反省していること、二度とギャンブルをしない誓約、治療や自助グループへの参加状況などを総合的に判断する。 GA に通っている、依存症外来に通院している、家族と借金の話をしているといった事実が、裁量免責の判断材料になる。

実務的には、ギャンブル依存が原因の自己破産でも、ほとんどのケースで免責が認められている。 弁護士・司法書士に相談すれば、その実情を教えてくれる。

「自己破産はできない」と決めつけて、苦しみ続ける必要はない。


自分にどれが向いているか

判断軸は、おおむね次の通り。

状況検討する選択肢
借金が少ない(数百万円以下)+ 収入がある任意整理または特定調停
借金が大きい(数百万円〜数千万円)+ 収入がある + 家を残したい個人再生
借金が返済不能なレベル + 収入が少ない or なし自己破産
とにかく分からない法テラスに電話して相談

ただし、これは目安である。 実際の判断は、弁護士・司法書士と相談して決める。 自分で「これだ」と決めてから相談に行くのではなく、相談しながら一緒に決める姿勢で行く。


法テラスの使い方

法テラスとは

法テラス(正式名称: 日本司法支援センター)は、国が設立した法的トラブルの相談窓口である。 全国に窓口があり、電話・対面・オンラインで相談できる。

連絡先

何ができるか

  • 無料の電話相談(法律情報の提供)
  • 借金の状況を聞いて、合った制度を案内
  • 弁護士・司法書士の紹介
  • 一定所得以下なら、弁護士費用の立替え制度(民事法律扶助)

「民事法律扶助」とは

所得や資産が一定以下の人は、弁護士・司法書士の費用を法テラスが立て替えてくれる制度がある。 立て替えてもらった費用は、月々5,000円程度から分割で返済する。 これにより、「お金がないから弁護士に頼めない」状態を回避できる。

申し込みには審査がある。 詳細は法テラスに電話で確認できる。

最初の電話の例

法テラスです。

「借金のことで相談したいのですが、初めてです」

「どのような借金ですか」

「ギャンブルで作った借金が ___ 万円あります。返済が難しい状況です」

(必要な情報を教えてくれる)

完璧に説明する必要はない。 名前、状況、何で困っているか、これを伝えるだけで十分。


法的整理だけでは終わらない

法的整理は、借金の問題を解決する手段である。 だが、ギャンブル依存そのものを解決する手段ではない。

法的整理だけ進めて、ギャンブル依存の治療をしないと、整理が終わったあとに必ず同じ状態に戻る。

  • お金のアクセス遮断(第6章)
  • GA や治療への接続(第22章)
  • 家族との関係修復(次章 ch21)

これらと並行して進めることが、本当の意味での再出発になる。

弁護士や司法書士の中には、ギャンブル依存に詳しい人もいる。 「ギャンブル依存の治療と並行で進めたい」と伝えると、医療機関や自助グループを紹介してくれる場合もある。


参考文献
  • 法テラス(日本司法支援センター). https://www.houterasu.or.jp/
  • 日本弁護士連合会. 債務整理に関するQ&A. https://www.nichibenren.or.jp/
  • 最高裁判所. 破産手続.
  • 破産法 (2004). 平成16年法律第75号.
  • 民事再生法 (1999). 平成11年法律第225号.
  • 国民生活センター. 消費者問題年表: 多重債務.
  • 木村達也 (2018). よくわかる債務整理: 相談から手続きまで. 日本加除出版.
  • 宇都宮健児 (2010). 消費者金融: 実態と救済. 岩波新書.
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