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全体像と緊急対処 現実に向き合う 第20章

家族との関係: 当事者の側から

本章は当事者の視点から書く。家族向けの内容(家族会、ギャマノン、家族支援の方法)は別途扱う。


土曜の昼。 リビングのソファ。 妻は子供を連れて実家に行っている。

3日前、また借金が見つかった。 今度は150万円。 妻は何も言わずに、泣きながら荷物をまとめて出ていった。

「来週末まで実家にいる。あなたとどうするか、考える」 そう書いた紙が、テーブルに置いてあった。

10年連れ添ってきた。 この10年で、妻に何回謝っただろう。 何回「もうやらない」と言っただろう。 何回、その約束を破っただろう。

これまでの謝罪のすべてが、嘘ではなかった。 そのときは本気で言っていた。 だが、結果として全部嘘になってしまった。 妻の中では、もう「言葉」では何も動かないだろう、と思った。


ギャンブル依存が家族に与えてきた影響

ギャンブル依存は、本人だけの問題ではない。 本人と一緒に暮らしてきた家族にも、深い影響を与えている。

経済的な影響

  • 家計がきつくなる
  • 子供の教育費、家族の生活費が削られる
  • 借金を肩代わりした家族もいる
  • 預金がなくなる、家を失うケースもある

心理的な影響

家族は、本人と同じくらい辛い経験をしてきている。

  • 本人の言動が信用できない
  • 「またか」が常態化
  • 家計のことを常に心配する
  • 隠し事をされてきた怒り
  • 何度も裏切られたあとの諦め
  • 自分のせいではないかという自責
  • 周囲(親、職場、近所)にバレないかの不安

家族は、本人がギャンブルをしていない時間も、ずっと心配している。 本人は「やめている時期は迷惑かけていない」と思いがちだが、家族の側は「またいつか戻るのではないか」という不安を常に抱えている。

社会的な影響

  • 家族の人間関係が狭くなる(恥で人と会えなくなる)
  • 子供が父親 / 母親のことを話せなくなる
  • 親戚との関係が壊れる
  • 引っ越しや転校を余儀なくされる場合もある

自分の存在そのものへの影響

家族は、本人を愛してきた。 それでも、依存症の本人と暮らすことで、「自分は何のために生きているのか」「自分は何が悪かったのか」と問い続けてきた。

これは家族の責任ではない。 だが、家族はその問いを背負い続けてきた。

家族の側にも、心のケアが必要である。 家族会(ギャマノン等)や、家族向けのカウンセリングがある。


信頼が壊れていく仕組み

信頼は、ある日突然壊れるのではない。 小さな嘘と小さな約束破りの積み重ねで、少しずつ壊れていく。

最初は小さな嘘

最初は、ほんの少しの嘘から始まる。 「今日は残業で遅くなる」(実際はパチンコ) 「給料はちゃんと振り込まれている」(実際は手前で抜いている) 「今月はちょっと付き合いが多くて」(実際はギャンブル)

嘘の規模は最初は小さい。 家族も最初は気づかない、または気づいても見過ごす。

約束と裏切りのサイクル

借金や使い込みが発覚する。 本人は泣いて謝る。 「もう絶対やらない」と約束する。 家族は信じる。

数週間〜数ヶ月後、また同じことが起きる。 本人はまた泣いて謝る。 「今度こそ本当にやらない」。 家族は、また信じる(または、半分諦めながら受け入れる)。

このサイクルが何度も繰り返される。 1回ごとに、家族の中の「信じる力」が削れていく。

信じる力がゼロになる瞬間

ある時点で、家族の中の「信じる力」が完全にゼロになる。 「もう何を言っても信じない」になる。 これは怒りからではない。 信じることに使えるエネルギーが、もう残っていないからである。

冒頭の場面の妻の状態が、ここに近い。 怒っていない。冷たい。だが、何も信じていない。

ここから先は「言葉」では戻らない

信じる力がゼロになったあと、本人がどれだけ「もうやらない」と言っても、家族の中では何も動かない。 言葉では、もう何も伝わらない。 ここから先は、行動だけが意味を持つ。


家族にどう話すか

「謝罪」と「報告」を混同しない

これまでに何度も謝ってきた人ほど、「謝罪」が無効化していることに気づいていない。 家族にとって、謝罪はもう「またか」と感じるきっかけになっている。

これからは、「謝罪」ではなく「報告」に切り替える。

  • 「ギャンブル依存という病気だと認めた。治療を始めることにした」
  • 「借金の総額が分かった。___万円ある」
  • 「弁護士に相談しに行くことにした」
  • 「次の月曜から GA に通う」

過去の行為への謝罪ではなく、これからの具体的な行動を伝える。 家族が知りたいのは「ごめんなさい」ではなく、「これから何が変わるか」である。

短く話す

長く話さない。 長く話すと、過去の言い訳と区別がつかなくなる。

伝えることは、次の3つだけでいい。

  1. 自分の現在の状態(事実)
  2. これから何をするか(行動)
  3. 家族に何を頼むか(協力の要請)

例:

「いま借金が ___ 万円ある。 ギャンブル依存だと認めた。来週から治療を始める。 お金の管理を、しばらく頼みたい」

3行で十分。 詳細は、家族が質問したら答える。

反応を求めない

話したあと、家族の反応を求めない。 「許してくれた」「分かってくれた」をその場で期待しない。

家族は、その場では何も言えないことが多い。 怒る、泣く、無言になる、出ていく、どれも普通の反応である。 反応を待たず、自分の行動を続ける。

約束しすぎない

「もう絶対やらない」と言いたくなる。 「今度こそ本気だ」と言いたくなる。 これは過去に何度も言ってきたセリフである。 家族の中では、もう無効化している。

代わりに、こう言う。

「絶対とは言えない。 ただ、今日からの行動を変える。 やっていることを毎日見せる」

これは弱気ではない。 事実に近い表現である。 依存症は再発する病気であり、「絶対」は本人にも保証できない。 できるのは「今日の行動」だけである。

家族に「絶対」と言うほど、信頼が遠ざかる。 家族に「今日の行動を見せる」ほど、信頼が少しずつ戻る。


信頼の修復は「過程」である

信頼は、ある日突然戻るものではない。 何百日、何年もかけて、少しずつ戻る。 完全に戻らない場合もある。

信頼の戻り方

信頼が戻るのは、次のような小さな積み重ねである。

  • 「今日もギャンブルしなかった」が30日続く
  • 通院を約束通り続けている
  • 家計の話を逃げずにする
  • 借金の整理が進んでいる
  • 隠し事をしなくなった
  • 機嫌や言動が安定してきた
  • 家族の話を最後まで聞ける

これらが半年、1年と積み重なって、家族の中で「もしかしたら今度は本当かもしれない」が育つ。 1年以上かかることが多い。 2〜3年以上かかることもある。

「過程」を急がない

「早く許してほしい」「早く前みたいに戻りたい」と急ぐ気持ちは出る。 だが、急いだ瞬間に、家族の中の警戒心が強まる。 「結局、自分のことしか考えていない」と感じさせる。

過程を急がない。 家族のペースに合わせる。 家族が「許す」と言うまで、自分から「許してくれ」と言わない。

戻らない関係もある

正直に書くと、家族との関係が完全に戻らない場合もある。

  • 離婚に至るケース
  • 子供との関係が長く距離を置いたままのケース
  • 親と絶縁になるケース

これらは、現実として起こる。 本書の読者の中にも、すでにそうなっている人もいる。

戻らない関係があっても、本人の回復は続けられる。 「家族と元通りにならなかったから自分の人生は終わり」ではない。 家族との関係は人生の一部であり、回復は人生全体の話である。


家族が話を聞ける状態にないとき

時に、家族は「話を聞く」状態にないことがある。

  • 怒りが強すぎて聞けない
  • 諦めていて聞きたくない
  • 物理的に距離を置いている
  • 第三者を入れないと話せない

そのときは、無理に話そうとしない。 代わりに、

  • 行動を続ける(ギャンブルをしない、通院する、借金整理を進める)
  • 第三者(カウンセラー、医師、法テラスの担当者)を介して伝える
  • 手紙やメッセージで短く近況を伝える
  • 家族会(ギャマノン)に家族が行けるよう紹介する

直接話せない時期が長く続くこともある。 その間も、自分の回復は止めない。 家族は、本人の回復を遠くから見ていることが多い。


子供がいる場合

子供がいる家庭では、もう一つ大事なことがある。

子供に対する正直さ

子供は、年齢に関わらず、家の中の異変を感じている。 「子供には分からない」と思っていても、子供はだいたい気づいている。

成長段階に応じて、必要な範囲で、嘘ではない情報を伝える。 「お父さん(お母さん)はいま病気の治療をしている」というシンプルな伝え方でいい。 詳細は、子供が大きくなったときに、必要な範囲で。

子供の前ではギャンブルをしない、話題にしない

子供がいる時間帯・場所では、ギャンブルに関連する行動・話題を出さない。 これは「子供を守る」というより、「子供の前で自分の状態をリセットする」という意味でもある。

子供との時間を大事にする

回復の過程で、子供との時間を意識的に作る。 完璧な親である必要はない。「いっしょにいる時間」が増えるだけで、子供の中では大きな変化になる。

子供は、親の行動から学んでいる。 親が回復に向き合っている姿を見せることは、子供にとっても意味のあることである。


参考文献
  • Hodgins, D.C., Toneatto, T., Makarchuk, K., Skinner, W., & Vincent, S. (2007). Minimal treatment approaches for concerned significant others of problem gamblers: A randomized controlled trial. Journal of Gambling Studies, 23(2), 215-230.
  • Kalischuk, R.G., Nowatzki, N., Cardwell, K., Klein, K., & Solowoniuk, J. (2006). Problem gambling and its impact on families: A literature review. International Gambling Studies, 6(1), 31-60.
  • Dowling, N., Smith, D., & Thomas, T. (2009). The family functioning of female pathological gamblers. International Journal of Mental Health and Addiction, 7(1), 29-44.
  • ギャマノン日本インフォメーションセンター. https://www.gam-anon.jp/
  • 信田さよ子 (2014). 依存症臨床論. 青土社.
  • 斎藤学 (2009). 家族依存症. 新潮文庫.
  • 松本俊彦 (2018). 誰がために医師はいる. みすず書房.
  • McCrady, B.S. (2004). To have but one true friend: Implications for practice of research on alcohol use disorders and social networks. Psychology of Addictive Behaviors, 18(2), 113-121.
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