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全体像と緊急対処 引き金とスキル 第15章

退屈・孤独・眠れない夜への対処

土曜の午後3時。 予定はない。 昼まで寝ていた。起きて、ご飯を食べて、家に戻った。 あと数時間、夜まで何もすることがない。

本を開いてみる。3ページで集中力が切れる。 スマホを開く。SNSを5分流して、何も入ってこない。 テレビをつける。情報番組をぼんやり見ている。

「ちょっとだけパチンコ屋を見に行こう」が頭の中に浮かぶ。 「打たない、見るだけ」と頭で言いながら、靴を履いている。 夕方には1万負けて帰ってきた。

これが「空白の時間」の典型である。 何も悪いことが起きていない。ただ、することがなかった。 それだけのはずだったが、空白そのものが引き金だった。


「空白の時間」がなぜ危険か

ギャンブル依存の脳は、「何もしない時間」がもっとも危険である。 理由は3つある。

ドーパミンの落差

ギャンブル依存の脳は、普段からドーパミンが出やすい状態になっている。 ギャンブル中はそれが大量に放出されて満たされる。 逆に、何もしていない時間はドーパミンが少なくなり、強い「物足りなさ」が生まれる。 その「物足りなさ」を埋めるために、脳が自動的にギャンブルを探し始める。

引き金が増える時間

何もしていない時間は、頭の中に引き金が出てくる時間でもある。 過去の場面、特定のフレーズ、勝った日の記憶、負けた日の悔しさ。 これらが頭の中をよぎる。 何かをしている時間は、これらが入り込む隙がない。 何もしていない時間は、入りたい放題である。

「ちょっとだけ」が出る時間

予定が詰まっている時間には、「ちょっとだけ」という言い訳が出にくい。 予定がない時間には、その言い訳がいくらでも出る。 「いま、すぐ、見るだけ、打たない」という嘘が、頭の中で動く。

これらが重なって、何もしない時間がギャンブルの時間に変わる。


退屈と向き合う

退屈は感情である

退屈は、ただ「することがない状態」ではない。 脳の中で生まれる、れっきとした感情である。

依存当事者にとって、退屈は強い苦痛になる。 ギャンブル時代の脳は、強い刺激に慣れている。 やめたあとの「普通の時間」は、強さが足りない。 その差を「退屈」として感じる。

これは、回復の途中で必ず通る道である。 退屈を感じるのは、脳が回復しつつある証拠でもある。 強い刺激に慣れていた脳が、普通の刺激でも満足できる脳に戻っていく途中である。

退屈は時間がたてば薄まる

最初の数週間〜数ヶ月は、退屈がもっとも強い。 ギャンブル時代の脳と「やめた後の脳」のギャップが、いちばん大きい時期である。

時間がたつと、このギャップは少しずつ縮まる。 普通の時間でも「悪くない」と感じる瞬間が増える。 完全になくなるわけではないが、最初ほど苦しくはなくなる。

「いまだけ我慢する」のではなく、「いつか薄まる」と知っていることが大事である。 未来の自分を信じる材料は、これだけでも十分な場合がある。

退屈と向き合う3つの方法

1. 退屈を「悪いもの」と決めない 退屈を感じたら、すぐに何かで埋めようとしなくていい。 5分、10分、退屈な状態のまま座っていてみる。 案外、何も起きない。 退屈そのものは、危険ではない。 退屈を「埋めようとする行動」が危険である。

2. 小さな刺激を増やす 強い刺激の代わりに、小さな刺激をたくさん用意する。 散歩、料理、コーヒー、本、音楽、植物、犬、家族との会話。 1つ1つは弱いが、組み合わせると1日が埋まる。

3. 退屈の中に意味を見つける 何もしない時間は、自分の状態を見直す時間でもある。 「いま自分は何を感じているか」「最近、何を考えているか」を、頭の中で1分整理する。 退屈が「自分との対話の時間」に変わる。


孤独な夜への対策

孤独は痛みに近い

第11章 (HALT) でも触れたが、孤独は脳の中で物理的な痛みと近い場所が反応する。 「寂しい」は、ただの気分ではなく、脳が痛みとして処理している状態である。

その痛みを埋めるために、ギャンブルが使われる。 ギャンブル中の音と光と画面の動きは、孤独な脳にとって「人と一緒にいる感覚」に近い。 偽物の連帯感だが、痛みを一時的に和らげる。

孤独な夜の対策

家に一人でいる夜が、ギャンブル依存の脳にとってもっとも危険な時間のひとつである。 対策は次の通り。

事前に予定を入れる

  • 週に1回は誰かと会う約束を、固定の曜日に入れる
  • 家族・友人・GA仲間・自助グループ、何でもいい
  • 1ヶ月先までカレンダーに書く

夜の連絡先を3人決めておく

  • 「もし今夜、辛くなったら連絡してもいい人」を3人決める
  • それぞれに事前に「もしものとき夜に連絡するかも」と一言伝えておく
  • 連絡先をスマホのお気に入りに登録

家を出る選択肢を持つ

  • 24時間営業のカフェ、ファミレス、コンビニのイートイン
  • 図書館(夜まで開いている地域もある)
  • 銭湯
  • 「家にいるとどうしてもギャンブルの方向に動く」夜は、家を出る

音と光を入れる

  • ラジオをつける(声が入ることで「人がいる感覚」に近づく)
  • 部屋の電気を全部つける
  • 動画をBGM代わりに流す
  • 「無音と暗闇」が孤独を増幅させる

眠れない夜のためのスキル

眠れない夜が危険な理由

夜中に眠れない時間は、ギャンブル依存にとって特に危険である。 理由:

  • 家族はみんな寝ている → 孤独
  • スマホを開きやすい → ギャンブル系アプリへのアクセス
  • 朝までの時間が長い → 「あと8時間」という空白
  • 疲れていて判断力が落ちている → ブレーキ役の脳が弱い

HALT の4つ(空腹・怒り・孤独・疲労)のうち、孤独と疲労が必ず揃う時間帯である。

眠れない夜の対処

1. スマホを別の部屋に置く 寝る前に、スマホをリビングや別の部屋に置く。 枕元から物理的に遠ざける。 眠れないとき、手が伸びる先がなければ、開けない。

2. 起きてしまったら布団を出ない 眠れなくても、布団の中にいる。 布団から出ると、「何かしよう」が動き始める。 布団の中で目を閉じているだけでも、体は休まる。

3. 起きるなら「決まった行動」をする どうしても布団を出るなら、事前に決めた「夜のルーチン」をやる。 例: 白湯を飲む、本を5ページ読む、ストレッチをする。 「決まった行動」だけにする。考えなくても動ける形にしておく。

4. 睡眠衛生を整える そもそも眠れる状態を作っておく。

  • 寝る前のカフェインを避ける
  • 寝る前のスマホとブルーライトを減らす
  • 毎日同じ時間に寝る、同じ時間に起きる
  • 昼間に体を動かす
  • 寝室を暗く、涼しく、静かに保つ

これらは「依存対策」ではなく「睡眠対策」だが、睡眠が整うと依存対策も同時に整う。

不眠が続くなら病院へ

3週間以上、眠れない夜が続くなら、精神科または心療内科に相談する。 不眠は、うつ病や不安障害などの共存症のサインである場合がある。 「眠れない」だけで病院に行っていい。 睡眠薬の処方や、原因の評価を受けられる。


「何もしない時間」を別の何かで埋める

代替活動のリストを作る

平静な日のうちに、「何もしない時間」を別の行動で埋めるリストを作っておく。 危機の瞬間にゼロから考えるのは難しい。事前に作っておく。

リストの作り方:

【家でできること】
・ ___________
・ ___________
・ ___________

【外でできること】
・ ___________
・ ___________
・ ___________

【誰かとできること】
・ ___________
・ ___________
・ ___________

【お金がなくてもできること】
・ ___________
・ ___________
・ ___________

それぞれに最低3つ書く。 書いたら、紙に印刷してよく見える場所に置く。

すぐ始められるものを選ぶ

リストの中から、「いま、5分以内に始められるもの」を3つマークする。 危機の瞬間に「これから準備して……」となると、間に合わない。 スマホ1つで始められる、玄関を出るだけで始められる、そういうものを選ぶ。

「楽しいか」より「続くか」

最初は、何をやっても楽しくないかもしれない。 ドーパミンの罠の章で書いた通り、回復初期の脳は「楽しい」が薄い。 だから、「楽しいか」を基準に選ばない。 「続けられるか」「リスクなく始められるか」を基準に選ぶ。

最初は退屈な散歩でも、続けると体が慣れる。 最初は読みづらい本でも、続けると入ってくる瞬間が増える。 楽しさは後からついてくる。


参考文献
  • Eastwood, J.D., Frischen, A., Fenske, M.J., & Smilek, D. (2012). The unengaged mind: Defining boredom in terms of attention. Perspectives on Psychological Science, 7(5), 482-495.
  • Cacioppo, J.T., Hughes, M.E., Waite, L.J., Hawkley, L.C., & Thisted, R.A. (2006). Loneliness as a specific risk factor for depressive symptoms: Cross-sectional and longitudinal analyses. Psychology and Aging, 21(1), 140-151.
  • Walker, M.P. (2017). Why We Sleep: Unlocking the Power of Sleep and Dreams. Scribner.
  • Roehrs, T., & Roth, T. (2008). Caffeine: Sleep and daytime sleepiness. Sleep Medicine Reviews, 12(2), 153-162.
  • Manber, R., Edinger, J.D., Gress, J.L., San Pedro-Salcedo, M.G., Kuo, T.F., & Kalista, T. (2008). Cognitive behavioral therapy for insomnia enhances depression outcome in patients with comorbid major depressive disorder and insomnia. Sleep, 31(4), 489-495.
  • Bergen, A.E., Newby-Clark, I.R., & Brown, A. (2012). Gambling increases self-control strength in problem gamblers. Journal of Gambling Studies, 28(2), 153-162.
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