助けを求める方法
夜10時。 スマホの電話帳をスクロールしている。 3週間前の再発から、誰にも言えていない。 誰に何を言えばいいのか、それ自体がわからない。
兄。だめだ。説教される。 高校時代の友人。だめだ。連絡が10年ない。 妻。すでに知っているが、これ以上は言えない。 GA の番号。一度ホームページで見たが、電話する勇気がなかった。
スクロールを止めて、画面を消した。 今日も誰にも言えなかった。 明日も同じだろう。
「助けを求める」が、いちばんできない。 やり方が分からない。 そもそも、何を求めればいいかも分からない。
助けを求めるのが難しい理由
ギャンブル依存当事者は、助けを求めるのが特に苦手である。 理由はいくつもある。
- 恥: 前章で扱った通り。「こんなことを話すなんて」と感じる
- プライド: 「自分でなんとかしたい」気持ち
- 過去の負い目: 何度も期待を裏切ってきた相手に、また頼めない
- 言葉にできない: 自分の状態を言葉にしようとするとパニックになる
- 「何を求めるか」が分からない: 解決策?お金?話を聞いてほしい?自分でも整理できていない
これらが重なって、結果的に「誰にも言えない」状態が続く。 そして、孤立した中で依存が深まる。
「助けを求められない」は、性格の問題ではない。 依存症の症状のひとつである。
「助けを求める」とは何か
ここで一度、誤解を解いておく。 「助けを求める」は「相手に解決を期待する」ことではない。
- 借金を肩代わりしてもらう、ではない
- 治してもらう、ではない
- 答えを出してもらう、ではない
そうではなく、
自分の中にあるものを、言葉にして相手に伝える
これが助けを求めることの本質である。 相手は答えを持っていない場合のほうが多い。それでもいい。 言葉にして、誰かに渡すこと自体が、回復のプロセスである。
「ただ聞いてもらう」だけでも、十分に助けになる。 むしろ、それがいちばん大事な助けかもしれない。
相手の選び方
話す相手の条件
選びたい相手:
- 説教しない人
- 過去のことを蒸し返さない人
- 話を遮らずに最後まで聞ける人
- 「お前が悪い」で終わらない人
- すぐに解決策を出さない人
避けたほうがいい相手:
- 説教する人
- 「お前が悪い」で終わる人
- すぐ解決策を出したがる人
- 過去のことを延々と言う人
- 自分の体験談に話をすり替える人
家族の中にこの条件に合う人がいないこともある。 その場合は、家族以外を選ぶ。 家族を選ばないことに罪悪感を感じなくていい。
相手の候補
- 信頼できる家族・親戚
- 学生時代の友人(疎遠でもいい)
- GA(ギャンブラーズ・アノニマス)の仲間
- 医療機関のスタッフ
- 自助グループ
- 精神保健福祉センターの相談員
- 法テラスの相談員(借金関連)
- カウンセラー、心理士
「誰もいない」と感じても、必ずいる。家族・友人で見つからなくても、医療や行政の窓口は必ずある。
「最初の一言」の具体例
「何と言えばいいか」が、最大の障壁になる。 ここでは、相手別に「最初の一言」の例を挙げる。 そのまま使ってもいいし、自分の言葉に変えてもいい。
家族へ
- 「実は相談したいことがある。少し時間ある?」
- 「ちゃんと話していなかったことがある。聞いてもらえる?」
- 「ギャンブルのことで困っている。一緒に専門家に行きたい」
- 「自分一人ではどうにもならない。手伝ってほしい」
友人へ
- 「久しぶりに連絡した。少し相談していい?」
- 「実は依存症のことで困っている。話を聞いてもらえる?」
- 「最近、自分一人ではうまくいかないことがある。電話できる時間ある?」
医療機関・GA・相談窓口へ
- 「ギャンブルで困っていて、相談したいんですが」
- 「ホームページを見て電話しました。初めてです」
- 「予約のしかたを教えてください」
- 「どこに相談すればいいか、教えてもらえますか」
職場の信頼できる人へ
- 「個人的な相談がある。仕事の話じゃないけど、いいですか」
最初の電話・初診で伝えること
「何を話せばいいか分からない」と感じても大丈夫。 最初は次のことだけ伝えればいい。
- 自分の名前
- 「ギャンブルで困っている」
- 「初めて連絡します」
- 「どうしていいか分からない」
これだけ。詳細はいらない。 相手はプロなので、ここから先は質問してくれる。 質問に答えるだけで、最初の相談は終わる。
完璧に状況を説明する必要はない。 言葉が詰まってもいい。沈黙してもいい。 それでも相手は受け止めてくれる。
「言えない」を乗り越える小さな一歩
完璧な言葉を待たない。 完璧な相手を待たない。 完璧なタイミングを待たない。
「いつか」「もう少し落ち着いたら」では、そのときは永遠に来ない。
最小の一歩から始める。
- LINE で1行だけ送る
- メールで「電話してもいいですか」とだけ書く
- 自助グループのホームページを開く(読まなくていい、開くだけでいい)
- GA の見学日を調べる
- 病院の電話番号をスマホに登録する
- 相談窓口の番号を紙に書く
これらは「助けを求める」の前段階だが、ここから始める。 最小の一歩を続けると、ある日、本物の電話ができる日が来る。
断られたらどうするか
勇気を出して連絡したのに、相手が忙しくて応えてくれないことがある。 これは本当に辛い。 ここで「もう誰にも頼まない」と決めてしまう人が多い。
- 1人目で断られたら、2人目に行く
- 「忙しい」「時間がない」は、依存とは関係ない事情
- 個人的な拒絶ではない
- 相手リストを3人以上用意しておく
最初から複数の選択肢を持っておくと、断られたときに崩れにくい。
プロには遠慮しなくていい
医療者、カウンセラー、相談員、GA。 これらの人たちは、助けを求められることが仕事である。
「迷惑かな」「忙しいかな」「自分の問題なんてつまらないかな」。 こういう遠慮は、家族や友人に対するものである。 プロに対しては不要である。
むしろ、相談されないことのほうが困るのが彼らの立場である。 「助けを求めにくい人」をどう動かすかが、彼らの専門的な課題である。 だから、遠慮なく頼っていい。
電話の最初に「迷惑じゃないですか」と言ってもいい。 たいていは「全然迷惑じゃないですよ」と返ってくる。
参考文献
- Suurvali, H., Cordingley, J., Hodgins, D.C., & Cunningham, J. (2009). Barriers to seeking help for gambling problems: A review of the empirical literature. Journal of Gambling Studies, 25(3), 407-424.
- Pulford, J., Bellringer, M., Abbott, M., Clarke, D., Hodgins, D., & Williams, J. (2009). Reasons for seeking help for a gambling problem: The experiences of gamblers who have sought specialist assistance and the perceptions of those who have not. Journal of Gambling Studies, 25(1), 19-32.
- Cunningham, J.A. (2005). Little use of treatment among problem gamblers. Psychiatric Services, 56(8), 1024-1025.
- Hodgins, D.C., & el-Guebaly, N. (2000). Natural and treatment-assisted recovery from gambling problems: a comparison of resolved and active gamblers. Addiction, 95(5), 777-789.
- Gainsbury, S., Hing, N., & Suhonen, N. (2014). Professional help-seeking for gambling problems: Awareness, barriers and motivators for treatment. Journal of Gambling Studies, 30(2), 503-519.
- ギャンブラーズ・アノニマス日本インフォメーションセンター. http://www.gajapan.jp/
- 厚生労働省. 精神保健福祉センター 一覧.