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全体像と緊急対処 いま、動き出す 第10章

助けを求める方法

夜10時。 スマホの電話帳をスクロールしている。 3週間前の再発から、誰にも言えていない。 誰に何を言えばいいのか、それ自体がわからない。

兄。だめだ。説教される。 高校時代の友人。だめだ。連絡が10年ない。 妻。すでに知っているが、これ以上は言えない。 GA の番号。一度ホームページで見たが、電話する勇気がなかった。

スクロールを止めて、画面を消した。 今日も誰にも言えなかった。 明日も同じだろう。

「助けを求める」が、いちばんできない。 やり方が分からない。 そもそも、何を求めればいいかも分からない。


助けを求めるのが難しい理由

ギャンブル依存当事者は、助けを求めるのが特に苦手である。 理由はいくつもある。

  • : 前章で扱った通り。「こんなことを話すなんて」と感じる
  • プライド: 「自分でなんとかしたい」気持ち
  • 過去の負い目: 何度も期待を裏切ってきた相手に、また頼めない
  • 言葉にできない: 自分の状態を言葉にしようとするとパニックになる
  • 「何を求めるか」が分からない: 解決策?お金?話を聞いてほしい?自分でも整理できていない

これらが重なって、結果的に「誰にも言えない」状態が続く。 そして、孤立した中で依存が深まる。

「助けを求められない」は、性格の問題ではない。 依存症の症状のひとつである。


「助けを求める」とは何か

ここで一度、誤解を解いておく。 「助けを求める」は「相手に解決を期待する」ことではない。

  • 借金を肩代わりしてもらう、ではない
  • 治してもらう、ではない
  • 答えを出してもらう、ではない

そうではなく、

自分の中にあるものを、言葉にして相手に伝える

これが助けを求めることの本質である。 相手は答えを持っていない場合のほうが多い。それでもいい。 言葉にして、誰かに渡すこと自体が、回復のプロセスである。

「ただ聞いてもらう」だけでも、十分に助けになる。 むしろ、それがいちばん大事な助けかもしれない。


相手の選び方

話す相手の条件

選びたい相手:

  • 説教しない人
  • 過去のことを蒸し返さない人
  • 話を遮らずに最後まで聞ける人
  • 「お前が悪い」で終わらない人
  • すぐに解決策を出さない人

避けたほうがいい相手:

  • 説教する人
  • 「お前が悪い」で終わる人
  • すぐ解決策を出したがる人
  • 過去のことを延々と言う人
  • 自分の体験談に話をすり替える人

家族の中にこの条件に合う人がいないこともある。 その場合は、家族以外を選ぶ。 家族を選ばないことに罪悪感を感じなくていい。

相手の候補

  • 信頼できる家族・親戚
  • 学生時代の友人(疎遠でもいい)
  • GA(ギャンブラーズ・アノニマス)の仲間
  • 医療機関のスタッフ
  • 自助グループ
  • 精神保健福祉センターの相談員
  • 法テラスの相談員(借金関連)
  • カウンセラー、心理士

「誰もいない」と感じても、必ずいる。家族・友人で見つからなくても、医療や行政の窓口は必ずある。


「最初の一言」の具体例

「何と言えばいいか」が、最大の障壁になる。 ここでは、相手別に「最初の一言」の例を挙げる。 そのまま使ってもいいし、自分の言葉に変えてもいい。

家族へ

  • 「実は相談したいことがある。少し時間ある?」
  • 「ちゃんと話していなかったことがある。聞いてもらえる?」
  • 「ギャンブルのことで困っている。一緒に専門家に行きたい」
  • 「自分一人ではどうにもならない。手伝ってほしい」

友人へ

  • 「久しぶりに連絡した。少し相談していい?」
  • 「実は依存症のことで困っている。話を聞いてもらえる?」
  • 「最近、自分一人ではうまくいかないことがある。電話できる時間ある?」

医療機関・GA・相談窓口へ

  • 「ギャンブルで困っていて、相談したいんですが」
  • 「ホームページを見て電話しました。初めてです」
  • 「予約のしかたを教えてください」
  • 「どこに相談すればいいか、教えてもらえますか」

職場の信頼できる人へ

  • 「個人的な相談がある。仕事の話じゃないけど、いいですか」

最初の電話・初診で伝えること

「何を話せばいいか分からない」と感じても大丈夫。 最初は次のことだけ伝えればいい。

  1. 自分の名前
  2. 「ギャンブルで困っている」
  3. 「初めて連絡します」
  4. 「どうしていいか分からない」

これだけ。詳細はいらない。 相手はプロなので、ここから先は質問してくれる。 質問に答えるだけで、最初の相談は終わる。

完璧に状況を説明する必要はない。 言葉が詰まってもいい。沈黙してもいい。 それでも相手は受け止めてくれる。


「言えない」を乗り越える小さな一歩

完璧な言葉を待たない。 完璧な相手を待たない。 完璧なタイミングを待たない。

「いつか」「もう少し落ち着いたら」では、そのときは永遠に来ない。

最小の一歩から始める。

  • LINE で1行だけ送る
  • メールで「電話してもいいですか」とだけ書く
  • 自助グループのホームページを開く(読まなくていい、開くだけでいい)
  • GA の見学日を調べる
  • 病院の電話番号をスマホに登録する
  • 相談窓口の番号を紙に書く

これらは「助けを求める」の前段階だが、ここから始める。 最小の一歩を続けると、ある日、本物の電話ができる日が来る。


断られたらどうするか

勇気を出して連絡したのに、相手が忙しくて応えてくれないことがある。 これは本当に辛い。 ここで「もう誰にも頼まない」と決めてしまう人が多い。

  • 1人目で断られたら、2人目に行く
  • 「忙しい」「時間がない」は、依存とは関係ない事情
  • 個人的な拒絶ではない
  • 相手リストを3人以上用意しておく

最初から複数の選択肢を持っておくと、断られたときに崩れにくい。


プロには遠慮しなくていい

医療者、カウンセラー、相談員、GA。 これらの人たちは、助けを求められることが仕事である。

「迷惑かな」「忙しいかな」「自分の問題なんてつまらないかな」。 こういう遠慮は、家族や友人に対するものである。 プロに対しては不要である。

むしろ、相談されないことのほうが困るのが彼らの立場である。 「助けを求めにくい人」をどう動かすかが、彼らの専門的な課題である。 だから、遠慮なく頼っていい。

電話の最初に「迷惑じゃないですか」と言ってもいい。 たいていは「全然迷惑じゃないですよ」と返ってくる。


参考文献
  • Suurvali, H., Cordingley, J., Hodgins, D.C., & Cunningham, J. (2009). Barriers to seeking help for gambling problems: A review of the empirical literature. Journal of Gambling Studies, 25(3), 407-424.
  • Pulford, J., Bellringer, M., Abbott, M., Clarke, D., Hodgins, D., & Williams, J. (2009). Reasons for seeking help for a gambling problem: The experiences of gamblers who have sought specialist assistance and the perceptions of those who have not. Journal of Gambling Studies, 25(1), 19-32.
  • Cunningham, J.A. (2005). Little use of treatment among problem gamblers. Psychiatric Services, 56(8), 1024-1025.
  • Hodgins, D.C., & el-Guebaly, N. (2000). Natural and treatment-assisted recovery from gambling problems: a comparison of resolved and active gamblers. Addiction, 95(5), 777-789.
  • Gainsbury, S., Hing, N., & Suhonen, N. (2014). Professional help-seeking for gambling problems: Awareness, barriers and motivators for treatment. Journal of Gambling Studies, 30(2), 503-519.
  • ギャンブラーズ・アノニマス日本インフォメーションセンター. http://www.gajapan.jp/
  • 厚生労働省. 精神保健福祉センター 一覧.
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