✅ 要点3行まとめ
- ギャンブルは“娯楽”ではなく、時に自傷行為と同じメカニズムで繰り返される
- 脳内の報酬系・ドーパミン系に深く関わり、“合理的な判断”では止められない
- 「やめられない理由」は負けた金額ではなく、感じた苦しさの中にある
「なんで負けるのにやるの?」という誤解
「ギャンブルって結局損するんでしょ?」「負けるとわかってて、なぜやるのか理解できない」
この言葉を聞いたことがある人も、実際に言われたことがある人も多いかもしれません。
でも、それは本質を見落としている問いです。
ギャンブルをやめられないのは、「損得の判断ができないから」ではありません。
それはまるで、過食やリストカットをする人に「太るのに、なんで食べるの?」「傷つくのに、なんで切るの?」と聞くようなものです。
人はときに、傷つくとわかっていても、やってしまうことがあります。
ギャンブルは「脳」に訴えかけてくる
ギャンブルは脳の報酬系を強烈に刺激します。
とくに注目されているのが、「ドーパミン」という神経伝達物質。
これは「快感」や「やる気」を司る物質で、ギャンブルによって脳が一時的な快感を感じると、その回路が強化されていきます。
- 強化学習理論によれば、人間は「ランダムな報酬(たまに勝つ)」によって最も強く習慣化される
- 脳画像研究では、ギャンブル依存症の人の報酬系が過剰に活性化し、理性を司る前頭前野の活動が低下していることが判明(Clark et al., 2013)
つまり、ギャンブルは「勝った」「負けた」の結果以上に、脳の配線そのものを変えてしまう可能性があるのです。
「自傷行為」としてのギャンブル
ギャンブルが続いてしまう背景には、感情のコントロールの難しさや、苦しさから逃れたいという思いが隠れていることがあります。
「もうどうでもいい」
「現実を見たくない」
「何かを感じていたい」
そんな気持ちの中で、ギャンブルは一時的に感情を麻痺させる手段になります。
これは一種の自傷行為とも言えます。
目に見える“傷”ではなく、財布や生活、信用、人間関係が傷ついていくのです。
「やめられない自分」は弱いんじゃない
ギャンブル依存症は、世界保健機関(WHO)でも正式な疾患として認定されています(ICD-11)。
これは意志や性格の問題ではなく、脳や心の問題として正しく理解されるべきなのです。
だからこそ、「なんでやめられないの?」という問いではなく、
「なぜそんなに苦しかったのか?」に目を向けることが、回復の第一歩になります。
終わりに:やめられないのは“あなたのせい”じゃない
ギャンブルをやめられないのは、あなたがバカだからでも、意思が弱いからでもありません。
苦しさに対して、必死に対処しようとした結果かもしれないのです。
もしあなたが、「やめたいのに、やめられない」と思っているなら、
どうか自分を責めすぎずに、その奥にある感情や背景を見つめてみてください。
回復には時間がかかるかもしれません。
でも、それは「遠回り」ではなく、本当の自分を取り戻すための旅です。
📚 参考文献
- Clark, L., et al. (2013). Pathological choice: the neuroscience of gambling and gambling addiction. The Journal of Neuroscience.
- WHO (2019). International Classification of Diseases 11th Revision (ICD-11).
- Robbins, T. W., & Everitt, B. J. (1999). Drug addiction: bad habits add up. Nature.